ラベル 潮騒 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 潮騒 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2023年7月17日月曜日

『潮騒』と水俣病現地検証

 

 先日書いたとおり、鳥羽から伊勢湾・伊良湖水道を横断して伊良湖岬へ渡った。その際、フェリー甲板から右手に、神島を望むことができた。

三島由紀夫の小説の舞台である。せっかくの機会なので、『潮騒』を再読した。

小説、映画やアニメの舞台をめぐる聖地巡礼がはやりである。小説などを味読するうえで、聖地巡礼は必要だろうか。

現実を知ることはイメージの広がりを制約する、だから聖地巡礼は必要ないし、むしろ有害であるという考えもあるだろう。しかしぼくは聖地巡礼肯定派だ。

もののけの森のモデルといわれる屋久島の白谷雲水峡、『千と千尋の神かくし』のモデルといわれる台湾の九份、『君の名は。』のモデルといわれる飛騨高山の位山など。いずれも訪れて損はしなかった。

なかには原作のイメージを制約するところもないではないけれども、どちらかといえば豊かにしてくれるように思う。

『潮騒』の冒頭、神島そのものが神々しく描写される。伊勢湾に浮かぶ島。大綿津見神が支配する。西は伊勢・鳥羽、北は知多半島、東は伊良湖岬・渥美半島、南は太平洋。その描写がすばらしい。

三島が29歳のときの作。若いのに、さすが。一行とて無駄な文章がない。

現地を知らないで本文を読めば、たいくつさを感じるかもしれない。しかし現地を知ったうえで本文を読めば、一行一行の描写の的確さに舌を巻く思いがする。

弁護士になりたてのころ、水俣病訴訟に関与した。水俣病を理解するのに、現地を知ることほど重要なことはない。

チッソの工場の立地、そこから有機水銀が排出され、水俣湾を汚染した。水俣湾は半島や島々で囲繞されていて、有機水銀が集積しやすく、希釈されにくい。

裁判官を案内して現地検証をおこなった。漁船に乗って、あの島で何人の患者が発生し、あの半島のあの地区で何人の患者が発生したなどと指示説明を行った。

とても悲惨な公害被害現場を案内しているのであるけれども、他方で、水俣湾の美しさはたとえようもなかった。三島の見事な自然描写を読んでいると、あのときの記憶がいきいきとよみがえってきた。

2023年6月21日水曜日

関西の旅(2)神島

 

(フェリーから神島。左奥に霞んでいるのが伊良湖岬)

 関西の旅、つぎの目的地は伊良湖岬。『笈の小文』の旅で、流刑中の杜国を芭蕉が見舞い、ついでに訪れた。こんかいの旅で一番訪れたかったところ。

伊賀市駅からは伊賀鉄道で伊賀神戸まで。伊賀神戸から近鉄特急に乗り換え、鳥羽まで。鳥羽からフェリーに乗り、伊勢湾・伊良湖水道を横断。フェリーの着岸港が渥美半島の西端にある伊良湖岬。

伊賀神戸の駅舎ではツバメの夫婦が巣作りにはげんでいた。ちかくの田からくわえてきたとおぼしい泥をしきりに駅舎にへばりつけていた。

伊勢はスルー。ぜいたくな旅だ。5年ほどまえに子どもと訪れたので、よかろう。

鳥羽は50年ぶり。小学校の修学旅行で訪れたきり。小学生なのに、真珠養殖の様子を見せていただいた。せっかく教えていただいたが、真珠とは無縁の人生である。

鳥羽~伊良湖崎は地図で見ると近いが、伊勢湾フェリーで所要1時間。船旅はいい。とても旅情をかきたてられる。しかも、

ちょうど中間点に神島(古名、歌島)がある。


と、これだけ読んでピンときた人はそうとうな文学通。

神島は三島由紀夫の小説『潮騒』の舞台である。小学生のときに、文学全集で読んだ。どきどきした。とくに「その火を飛び越して来い」というところ。

以下、ほぼウィキからの受け売りであるが、とても興味深いので、紹介する。

三島は世界旅行をし、古代ギリシア熱が高まった。そして古代ギリシアの恋愛小説「ダフニスとクロエ」のプロットを生かした小説を書くことを構想。

ギリシアの神々ならぬ日本の神々の存在を意識できる場所を探し、伊勢の文化圏である神島を選んだ。三島が参考にした万葉集の歌はこれ。

 潮騒に伊良虞の島辺漕ぐ舟に妹乗るらむか荒き島廻を 柿本人麻呂

持統天皇が伊勢神宮参宮と舟遊びをかねて伊勢に旅した時、都で留守番をした人麻呂がお供の女官を想って詠んだとされる。「伊良虞」は、伊良湖岬もしくは神島のことである。

伊良虞は伊良湖岬もしくは神島のことと言われてもピンとこない。しかし、写真を見てほしい。伊勢(鳥羽)から見ると、神島も伊良湖岬も島々にしか見えない。

かくて、神々のすまう日本のエーゲ海を横断して、伊良湖岬へ向かったのだった。