2026年6月4日木曜日

『PERFECT DAYS』(2)

 

 平山が聴いている音楽と読んでいる本について書こうと思う。

 書いてよいかどうか迷うが、実は『出川哲郎の充電させてもらえませんか?』(テレビ東京)という番組が大好きである。

 シナリオらしいシナリオはなし。出川、ゲストとディレクターが3人で、電動バイクで旅をするだけ。しかし、出川たちと旅先の人々との交流やロードムービー風な自由な感じがとてもよいのである。毎週録画して欠かさず見ている。

 同番組を見ていると、唐突にいろんな曲が流れる。「颯爽たるシャア」、「がんばれ牛乳当番」、「ラブリーディ」、「田園」・・・。毎週見ていると、それぞれの曲にシーンにあわせた意味があることが分かる。

 新しいゲストが登場するときは「デビルマンのうた」。♪あれはだれだだれだだれだ・・・。出川たちはしょっちゅう温泉に立ち寄っている。入るときはフランク・シナトラのニューヨーク・ニューヨークのテーマといった具合だ。

 『PERFECT DAYS』に戻る。平山はトイレ掃除にむかうワゴン車のなかで毎日、カセットテープを選んで聴いている。聞き覚えがあるものの詳しくは知らない曲ばかり。よく分からないので最初は聞き流していた。

 作品の後半に差し掛かったところで、平山はある小料理店に入る。おかみは石川さゆり(元夫は三浦友和。あとで分かる。)。一目惚れしてしまうやろ~といういい感じ。他の客の嫉妬めいた冗談で、二人がまんざらでもない関係であることが分かる。

 客たちのリクエストで石川が歌うのが「朝日楼」。♪私が着いたのはにおい津?の朝日楼という名の女郎屋だった・・・。

 うん?これは冒頭で流れたのとおなじ曲ではなかろうか?調べると、そうだった。冒頭の曲はアニマルズの「朝日の当たる家」。これまで曲を聴いたことはあっても題名までは知らなかった。

 「朝日の当たる家」はフォークソング。フォークソングといえば、赤い鳥やイルカが作詞・作曲した曲だと思っていた。が、本来は文字どおり、誰が作詞・作曲したか分からず、むかしから皆が口ずさんでいる曲のこと。日本でいえば民謡。「竹田の子守歌」のような。

 「朝日の当たる家」もこのようなフォークソング。もとはボブ・ディランらも歌っていたらしい。アニマルズがどくとくの歌唱で大ヒット。かくてわれわれが聴いていたのはアニマルズの曲。それを日本語の歌詞にしたのが「朝日楼」。

 石川さゆりの歌唱では「におい津」と聞こえた。新潟かどこかにあった色町だろうと思った。が、アニマルズの歌詞でニューオリンズと分かった。

 平山が読んでいる本の一つにフォークナーの『野生の棕櫚』がある。二つの筋が並立している小説である。その一つが『オールド・マン』。オールド・マンはミシシッピ川の別称である。『野生の棕櫚』の男性主人公ハリーはニューオリンズでインターン生活をしていた。

 平山は東京スカイツリーの近くの古アパートに住み、近くを隅田川が流れている。どうやら、平山の住処と隅田川はニューオリンズとミシシッピ川に比定されているらしい。

 などなどとネットサーフィンをしたところで、もう一度、冒頭のシーンを見直した。平山はいつもどおり起き、歯磨きをして、道具を点検して家を出て、自販機で缶コーヒーを買い、ワゴンで仕事に出かけ、カセットテープを再生する。すると、アニマルズの「朝日の当たる家」が流れ、東京のビル街に朝日が当たり・・・。

 なんという素晴らしいオープニングだろうか。この曲だけで、場面の説明だけでなく、平山の人生まで説明しつくされていたのだ。 

 ジェイムズ・ジョイスは『ユリシーズ』を理解するには研究者たちが100年議論する必要があるなどと自分で述べている。『PERFECT DAYS』を完全に理解するには少なくともあと10回は見直さないといけないようだ。

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