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2010年12月19日日曜日

 ギリシャ悲劇とローマ法



 村上春樹さんは「ノルウェイの森」で
 古典ギリシャ悲劇をベースとして物語を展開されています。

 ギリシア悲劇は、古代ギリシアで
 アテナイのディオニソス祭で上演されていました。

 「ノルウェイの森」の巻頭には
 「多くの祭り(フェト)のために」というエピグラフが
 置かれています。

 「多くの祭り」が何と何と何…を指しているのかは
 挑戦するにたる大変面白い設問ですが
 ディオニソス祭はその一つだと思います。

 ディオニソスは、ギリシア神話に登場する豊穣とブドウ酒と酩酊の神
 作中「僕」はしょっちゅう誰かとワインなどの酒を飲み
 誕生会や就職祝いなどをやっているのが、その理由です。

 ま、村上さんがそう考えていなかったとしても
 そう考えるほうが正解のように思います。

 そう考えるほうが
 「ノルウェイの森」がより大きなスケールをもち
 深みを増すからです。
 エピグラフというのはそういうものでしょう。 

 ディオニソス祭での上演は
 悲劇作家らが競作し
 聴衆の投票により優勝者を決めていました。

 一昨日、内ちゃん南ちゃんが
 「ザ・イロモネア 笑わせたら100万円」をやってましたが
 イメージとしては、あんな感じだったのでしょうか。
 (古典悲劇作家の先生がたにはやや失礼の段お許しください)

 考えてみれば、陪審や裁判員裁判も
 古典ギリシャ悲劇の上演と似ていないわけではないわけです。

 しかしながら、われわれが法律論を展開するのに
 依拠している法は古典ギリシャ法ではありません
 古典ローマ法に由来する民法です。

 以前にも書きましたが、民法をひとことでいうと
 「約束は守ろうよ」ということです。

 この「合意は守られるべし」 (pacta sunt servanda)
 というのはローマ法に由来する大原則です。

 古代ギリシャは哲学や悲劇が知られ
 古代ローマは法律や土木建築技術が知られています。
 
 古代ギリシャ人は右脳、古代ローマ人は左脳が発達していた
 などと言ってしまいそうですが
 ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」が論証したとおり
 環境のなせるわざだったのでしょう。

 ローマ法はローマ時代から一貫してヨーロッパの法であった
 ような誤解もしてしまいそうですが、ちがいます。

 それはギリシャ・ローマの他の多くの知的遺産と同じ
 いったん忘れさられたのちに復活したものです。

 (古代ギリシャ、ローマ人は
 いまのイタリア、ギリシャ人とはちがいます。

 プラトンやソクラテスの末裔がいまのギリシャの財政危機を
 まねているわけではありません)

 ローマ法も、東ローマ帝国、ローマ・カトリック教会
 中世の大学らの手(数奇な運命)を経て
 中世ヨーロッパ大陸法(普通法)として復活しました。

 (漢倭那國王が漢の皇帝から授与された金印が失われて
 江戸時代に再発見された感じに似ています)

 普通法は市民革命後も、ナポレオン法典、ドイツ民法典などとして
 リメイクされ、基本的に現在でも通用しています。

 日本の民法は、これらをほぼ直輸入したものです。
 龍馬らの不断の努力により鎖国政策が崩壊した後、諸外国から
 不平等条約の改正の条件として民法の制定を求められたからです。

 ここら辺の話はまだ語るべきことがあるのですが
 それは別の機会にゆずり
 とりあえず「ノルウェイの森」へと戻りましょう。
 

2010年11月29日月曜日

 ハワイのハンセン病



 新春をハワイで過ごしませんか?
 旅行社からのDMが
 誘っています。

 ハワイといえばリゾート地
 ふつうハンセン病とは結びつきませんよね。
 でも関係あります。
 わかりますか?

 ヒントはきのうの話のつぎのくだり。
 「ピルグリムファーザーズがアメリカ大陸に来た時点で
 ニューイングランド周辺にいたインディアンのうち約90%は
 インフルエンザその他の病気により死亡した」
 
 東海岸で起きたことは当然ハワイ島でも起きます。
 19世紀半ば、ハンセン病が流行しました。

 ネイティブの人たちはハンセン病と過去に接したことがなく
 免疫をもたなかったからです。

 ハンセン病はきわめて感染力・発症力が弱い感染症
 日本で流行するようなことはありません。
 (いまでは特効薬で治癒します)

 関ヶ原の合戦で石田三成に味方した大谷吉継のように
 われわれの祖先がハンセン病に接してきたからです。

 幼少時などの濃厚接触のみにより感染するため
 昔から遺伝病と誤解されてきたぐらいです。

 ヨーロッパでも事情はほぼおなじ
 すでに旧約聖書にも記載され
 映画「ベン・ハー」のなかでも
 ベンの母と姉がイエスの奇跡により治癒する場面が。

 ただ19世紀半ばノルウエーで流行をみたことがありました。
 ハンセン病の名前の由来となった
 アルマウエル・ハンセンはノルウエー人
 らい菌を発見し、ハンセン病の原因をつきとめました。

 ノルウエーでは家庭内での隔離など穏やかな方法(相対隔離)で
 流行を収束させることができました。
 このようなやり方で十分というのが世界の趨勢となりました。

 これに対し、ハワイでは強制的な方法(絶対隔離)で臨みました。
 それでも1932年にはこのような方法をやめています。

 ところが日本では世界の趨勢に背をむけ
 1931年(昭和6)、らい予防法(旧法)を制定して、ハワイ方式に。

 絶対隔離・絶滅政策をがむしゃらに推し進めていくことになります。
 これによりおおくの感染者(治癒後も)、家族の人生が狂わされました。

 松本清張の「砂の器」(1961年)は
 患者の家族が差別・偏見をのがれるために陥った悲劇を
 描いています。
 (高校生のとき、授業をさぼって観ました。誰とだったかな~?)

 感染症とのつきあいは確かにむずかしい。
 われわれの人権感覚がためされる場面でもあります。

 でもダイアモンド※の頭脳までは必要ありません。
 (ハワイにダイアモンドヘッド※※は不可欠でしょうが…。)
 世界の趨勢に背をむけて絶対隔離政策を推し進めるような
 とんでもない石頭でなければ十分なんです。

 ※「銃、病原菌、鉄」の著者
 ※※ワイキキビーチから見える、オアフ島にある火山
 

2010年11月28日日曜日

 「銃、病原菌、鉄」に感謝しな祭?



 先週、米国はナショナル・ホリデーのひとつ・感謝祭でした。
 感謝祭の起源はポカホンタス的な説明で、つぎのとおり。

 ピルグリムファーザーズがプリマスに到着した
 冬は大変厳しく大勢の死者を出したが
 近隣に居住していたインディアンのワンパノアグ族の助力により
 生き延びることができた。
 翌1621年の秋は、とりわけ収穫が多かったため
 ピルグリムファーザーズはワンパノアグ族を招待し
 神の恵みに感謝して共にご馳走をいただいたことが始まりだとか。

 ジャレド・ダイアモンドの「銃、病原菌、鉄」
 (倉骨 彰訳、草思社、2000年)
 を読むと、そんな心温まる話ではなさそう。

 同書はピューリッツァー賞を受賞し
 朝日新聞による「この10年間の最も優れた書籍」でも第1位。

 1万3000年前、同じような条件でスタートしたはずの人間が
 今では一部の人種が圧倒的優位を誇っているのはなぜか?
   
 ダイアモンドは、地形や動植物相を含めた「環境」が原因だとします。
 より豊かな情報に接することができた環境というべきか。

 ヨーロッパ人の能力などの人種的な要因をまっこうから否定。
 ユーラシア大陸は、栽培可能な植物、家畜化できる動物にもともと恵まれ
 文明の交差点として「銃、病原菌、鉄」に接する
 環境にめぐまれていたにすぎないと。
 
 銃や鉄に関する情報ついては
 鉄砲伝来・長篠の戦いや
 最初の鉄器文化ヒッタイト(鉄器で青銅器を破るみたいな)など
 われわれも中学、高校時代から教えられてきました。
 西部劇でも銃をバンバンやる場面をなんどもみせられました。

 しかし病原菌(感染症)や、それに対する免疫力が武器だ
 というのは最近の考え方
 感染症や免疫(感染防御)に関するものもやはり情報なんですね。

 トムクルーズの映画「宇宙戦争」のクライマックスで
 侵略宇宙人たちがトムクルーズの活躍ではなく
 病原菌にやられたときは
 木戸銭返せ、と思いましたが
 H.G.ウエルズの原作からそうらしいです。
 (ウエルズの恐るべき先見性!)
 
 ピルグリムファーザーズがアメリカ大陸に来た時点で
 ニューイングランド周辺にいたインディアンのうち約90%は
 インフルエンザその他の病気により死亡したそうです。

 これではサンクス・ギビングデー(感謝祭)ならぬ
 ウイルス・ギビングデー!?
 ネイティブ・インディアンからすれば、まさに疫病神の襲来です。

 インディアン100人のうち90人を病原菌が倒したと知れば
 墓場のジョン・ウエインもびっくりするでしょう。

 16世紀日本におけるキリスト教や鉄砲伝来のとき
 日本人の90%が死亡する事態とならなかったのは
 朝鮮半島や中国をつうじて大陸とながい交渉があったおかげでしょう。

 香港型やらソ連型などその年に流行するインフルエンザの種類を
 聞くと、その思いをつよくします。

 われわれも病原菌と適度におつきあいをし
 免疫力をうまく鍛えておく必要があるのかもしれませんね。

 自己免疫を鍛えるために
 自分の懐中にカイチュウを飼っておられる藤田紘一郎さんの
 お説の受け売りですが。
 (福岡伸一さんの「生物と無生物のあいだ」、「動的平衡」については
 またの機会に)

 これからインフルエンザの流行期
 みなさまもご自愛ください。