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2024年3月10日日曜日

「世界遺産 大シルクロード展」@アジア美術館(5)

妙法蓮華経巻第一@1900年敦煌莫高窟出土
妙法蓮華経方便品@1900年敦煌莫高窟出土
妙法蓮華経化城喩品@1900年敦煌莫高窟出土

 今展でいちばん感動したのはこれら。1900年敦煌莫高窟で発見された妙法蓮華経(法華経)。

井上康の小説『敦煌』で主人公趙行徳が、映画「敦煌」で佐藤浩市が戦火の敦煌から命をかけて救い出した敦煌文献の一つである。

法華経は大乗仏教の教え。特別な修行を経た者だけでなく、誰もが平等に成仏できることが説かれている。

方便品は、仏が瞑想から覚めて、それまでの方便(たとえ話)ではなく真実を説く。

化城喩(けじょうゆ)は、化城のたとえ話。長く困難な道のりに、衆生はあきらめそうになる、リーダーはあの城で一休みしましょうといって衆生の気力を回復させるという話。

少女の菅原孝標女は夢をみ、僧侶から法華経第5巻を早く習うよう指導される(更級日記)。しかし、彼女はこれにしたがわない。第5巻には女人成仏を説く部分があるのに。

これら貴重な経典類は莫高窟内の洞窟に隠されていた。誰が、いつ、どのような理由でそのようなことをしたのか?

1900年に敦煌文献が発見されてから誰しもがその疑問をもった。小説『敦煌』は井上靖による、その鮮やかな回答だった。

さきにMIHO MUSEUMでみたように、「光る君」藤原道長も、吉野山金峯山寺に自筆写経を納経している。


きのうの「光る君へ」では、花山天皇を退位させる兼家の陰謀に加担していた。それを懺悔する気持ちもあっただろうか。

百名山の吾妻山連峰には一切経山という山がある。安部貞任が一切経を埋めたからという。経塚山という名の山は全国に数多い。

福岡と佐賀の県境にも、九千部山(くせんぶさん)がある。むかし若い僧が台風と病気に苦しむ村人を救うため、山頂で法華経を一万部読誦しようとした。が、あと千部というところで美しい女に誘惑されて果たせなかった・・・、それが名の由来という。

命をかけて永遠の真理を救出するのも人間なら、一時の誘惑に負けて挫折するのも人間である。

2024年3月7日木曜日

「世界遺産 大シルクロード展」@アジア美術館(4)

 
菩薩座像
馬頭観音


如来像
 
 シルクロードを東へ西へ文物が運ばれた。東から西へは絹や陶磁器が。西から東へもさまざまな文物が。その最大のものはやはり仏教である。仏教東漸。

菩薩座像は河南省竜門石窟近くから出土。唐代のもの。コルセットを着用した女性のようにウエストをしぼった姿が印象的。右脚をおろし、豪華な装飾品をつけている。優雅。インドのグプタ美術の影響である。

仏像というのはぶっちゃけ偶像崇拝だ。エホバ神がモーゼにさずけた十戒でも、偶像崇拝は禁止されている(旧約聖書、出エジプト記)。映画「十戒」では、金の子牛像を崇拝した罪深き人々は割れた大地の間に落ちていった。

旧約聖書をベースにしているユダヤ教、イスラム教は偶像崇拝を禁止し、キリスト教ではカトリックではゆるやか、プロテスタントでは厳格であろうか。

仏教でも、もともとは仏が人間の姿で表現されることはなかった。菩提樹、仏足石、法輪などで象徴的に表現された。星の王子さまで言われるとおり、大切なものは目に見えない。

それに畏怖の感覚もあろう。こういう感覚は古代から日本でもある。『源氏物語』が読みづらいことの一因として、登場人物の呼び名がくるくる変わることがある。本人の名前を呼ぶことがはばかられるため、官職名で、女性のばあいさらに親の官職名で呼んだりするからだ。

話を戻す。じゃいつころから、どこで、仏が人の姿に造形されるようになったのだろうか。それは、♪そこにいけばどんな夢もかなうという~遙かな世界、ガンダーラである。

ではなぜ、ガンダーラでは仏が人間の姿に造形化されたのか?この答えは世界史の雄大さを実感させてくれる。キーマンは、あのマケドニア王アレクサンドロス大王である。

ガンダーラはインダス川上流部に位置している。この地域は、アレクサンドロス大王が大東征をおこなった東端にあたっている。

東征後、西はギリシア・エジプトから東はインダス側流域に至る大帝国が建設された。域内では東方の文化と融合した新しいギリシア風文化が普及した。いわゆるヘレニズム文化である。

東方の文化というばあい、ここでは仏教である。それがギリシア文化と融合した。ギリシアでは神々が人の姿で造形されている。仏も人の姿で造形化されたことは必然である。

ガンダーラの仏がどこかギリシアの神々の面影を残しているのはこのためである。しかし、時代が下ってグプタ朝になると様式のインド化が進み、繊細・優雅な表現となった。こうして造形化された仏たちはシルクロード上を東へ向かった(東漸)。

むかしから観音様のなかに馬頭観音様がいらっしゃることに違和感をおぼえていた。しかし、仏教がシルクロードを東漸してきたのであれば、その間、騎馬民族がひごろお世話になっている馬が仏になるのも自然な流れかなと思う。

シルクロード各地の遺跡にのこる仏たちは、日本の仏たちのご祖先さまにちがいない。みな、法隆寺の百済観音、釈迦三尊像や、興福寺の仏頭にそっくりでいらっしゃる。

2024年3月5日火曜日

「世界遺産 大シルクロード展」@アジア美術館(2)

 

 きのうと同じ瑪瑙象眼杯(めのう・ぞうがん・さかずき)。1997年に、新疆ウイグル自治区にあるイリ市昭蘇県の歩間古墳から出土した。

「シルクロードといえば、正倉院の宝物、中島敦『李陵』、井上靖『楼蘭』、『敦煌』、玄奘三蔵・『西遊記』などわれわれにも親しい」と書きつつ、例えがいささか古いと感じた。

最近でいうとNHK・BSで、イギリスの旅行会社が主催し、イスタンブールから西安(長安)までバスツアーをする番組をやっていた。でもこれをみた人はすくなかろう。

その他なにかなかったっけ? 堺雅人の「VIVANT」はどうだろう? ドラマにはバルカ共和国がでてくる。ドラマの内容的に実在国ではさしさわりがあるので架空国である。

でも中央アジアに位置し、中国、ロシア、モンゴル、カザフスタンに囲まれた内陸国であるとされる。その4国の境となると、シルクロードよりだいぶ北のようだ。

https://www.google.com/maps/place/%E3%82%AB%E3%82%B6%E3%83%95%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3+%E3%80%92070000+%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%83%81%EF%BC%9D%E3%83%81%E3%83%B3%E3%83%80%E3%82%AC%E3%83%88%E3%82%A5%E3%82%A4/@46.9384528,74.6886673,4.56z/data=!4m6!3m5!1s0x42b9d22b58e9118f:0xe71ae621b1479ab3!8m2!3d49.2491419!4d87.0018929!16s%2Fg%2F1hc5qdqfs?entry=ttu

本展の目玉である先の瑪瑙象眼杯が出土したイリ市はどこだろう?

https://www.google.com/maps/place/%E4%B8%AD%E8%8F%AF%E4%BA%BA%E6%B0%91%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD+%E6%96%B0%E7%96%86%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%AB+%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%82%B6%E3%83%95/@44.3953929,75.5710294,5.75z/data=!4m6!3m5!1s0x38791aab067cee27:0x1325d3f1b296596b!8m2!3d43.9168899!4d81.32416!16zL20vMDI1aHNs?entry=ttu

イリ市は中国、カザフスタン、キルギスの3国境である。天山北路の最西にある伊寧の辺り。

瑪瑙象眼杯の説明では、民族往来の舞台、胡人の活動とオアシスの遺宝となっている。ここで胡人はイラン系のソグド人のことだ。プレ・シルクロードといえばよいだろうか。漢人が行き来する前から、シルクロードを往来してお宝を運んでいたのである。

瑪瑙(めのう)はどこから来たのだろう?残念ながら、瑪瑙はありふれた鉱物で世界各地で算出するようだ。日本でしか採れないとなれば、井上靖に習って、日本からイリ市に至る瑪瑙の数奇な運命を推理し、創作することができたのに。