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2022年12月14日水曜日

嵯峨~吉野~大峰~熊野「嵯峨日記」

 

(落柿舎)


(大峰山)

 
(熊野)

 二日戻って、LGBT。LGBTに帯する理解が深まると、作品解釈にも差が出るのかもしれない。というわけで、きょうは「嵯峨日記」。

二日前のブログで、笈の小文の旅で、芭蕉が島流しにあっていた愛弟子・杜国を慰めに訪問したこと、芭蕉と杜国の間に男色説があること、従来はそこで思考停止していたけれどそれではいけないと反省をしていることなど書いた。

杜国のことは「嵯峨日記」にもでてくる(杜国は前年亡くなった。)。

 廿八日
 夢に杜國が事をいひ出して、涕泣して覚む。
 心神相交わる時は夢をなす。陰尽きて火を夢見、陽衰えて水を夢みる。飛鳥髪をふくむ時は飛るを夢見、帯を敷寝にする時は蛇を夢見るといへり。睡枕記・槐安國・荘周夢蝶、皆其理有りて妙をつくさず。我夢は聖人君子の夢にあらず。終日忘想散乱の気、夜陰夢又しかり。誠に此ものを夢見ること、所謂念夢也。我に志深く伊陽旧里迄したひ来りて、夜は床を同じう起臥、行脚の労をともにたすけて、百日が程かげのごとくにともなふ。ある時はたはぶれ、ある時は恋しび、其志我心裏に染て、忘るることなければなるべし。覚て又袂をしぼる。

「嵯峨日記」は、元禄四年4月18日から5月4日まで、芭蕉が京都嵯峨野にある落柿舎に滞在したときの日記である。いままで、ぼんやりと小中学生の日記のように読んでしまっていた。しかし、杜国への愛惜の念を中心に置くと、起承転結で読めると思う。

まず起。嵯峨野や落柿舎の紹介。嵯峨野は「平家物語」にもでてくる。高倉天皇に愛されたがゆえに平清盛から迫害された小督が隠れ住んだ場所である。芭蕉のなかでは、空米売買の罪を問われた杜国とダブっているのかもしれない。

小督が隠れ住んだ嵯峨野も、いまは竹林が残るのみ。

 うきふしや竹の子となる人の果

むかしは豪勢だった(料理場なども広い!)落柿舎も、いまや所々頽破している。

 柚の花や昔しのばん料理の間

つぎに承。落柿舎は京都郊外にあるものの、入れ替わり立ち替わりお弟子さんたちが訪ねてきたり、その消息がもたらされる。表面的、芭蕉の生活はにぎやかなようだが、なぜか心中は淋しい。

そして転。さきの28日の記述。

その後、結。

 二日。
 曽良来りてよし野の花を尋ねて、熊野に詣侍るよし。
 武江旧友・門人のはなし、彼是取まぜて談ず。
  くまの路や分つつ入ば夏の海 曽良
  大峰やよしのの奥を花の果

笈の小文の旅で、芭蕉と杜国は吉野山まで行き、楽しんでいる。

 よし野にて櫻見せふぞ檜の木笠
 よし野にて我も見せふぞ檜の木笠 万菊丸(杜国)

曽良の旅はそこから先。吉野山から大峰奥駆け道(世界遺産)を通り、大峰山を経由して熊野に至る。夏の海は熊野灘である。中近世、熊野から海へ向けて補陀落渡海がおこなわれていた。

補陀落は、観音菩薩が降臨する伝説上の山であり、熊野の先にあるとされた。補陀落渡海は、行者が沖にこぎ出し、108の石をまきつけて捨身することである。

平家物語のなかでも、一ノ谷の戦に敗れた平維盛が戦列を離れて熊野へ行き、補陀落渡海(入水自死)したことが描かれている。

平家物語の小督の話ではじまった「嵯峨日記」である。曽良から熊野詣の話を聞かされながら芭蕉の頭に去来していたのは維盛の補陀落渡海のことであろう。補陀落渡海こそが「花の果」と意識されたことだろう。

 一、四日
 宵に寝ざりける草臥に終日臥。昼より雨止む。
 明日は落柿舎を出んと名残をしかりければ、奥・口の一間一間を見廻りて、
  五月雨や色紙へぎたる壁の跡    (「嵯峨日記」はここまで。)

杜国亡きあとの芭蕉の心には、五月雨がふりつづき、心中、色紙へぎたる壁の跡のようだったろう。かくて起承転結。

ところで、「嵯峨日記」をおさめた岩波文庫の『芭蕉紀行文集』。その表紙の文章をあらためて読んで、はっとした。

 人生の本質を無情・流転に見た芭蕉(1644-1694)の芸術と生涯は、幾つかの旅を展開点として飛躍を遂げてゆく。肉体と精神を日常の停滞から解き放ち、新たな発見に直面させてくれるもの、それは旅であり、芭蕉の人生観・芸術観の具体的吐露が紀行文であった。

はっとした理由は、それぞれ考えてくだされ。それではまた。

2022年12月12日月曜日

伊良湖岬とLGBT

 

 写真は、FDAの飛行機で松本に向かう途中、名古屋上空から伊勢湾方面を望んだところ。左側手前が愛知県の知多半島、向こうが渥美半島。右側が三重県の志摩半島。

渥美半島の西の端(右端)に伊良湖岬がある。その向こう側が恋路が浜。志摩半島の先端は鳥羽。なお、知多半島の中央西にセントレア空港が浮かんでいる。

高校時代の恩師が伊良湖岬あたりを旅行中とSNSに報告していた。恩師は大阪住まいである。ではどうやって伊良湖岬へ行ったのか。

陸路を行くとなかなかたいへんである。ナビタイムによると、新幹線で名古屋、そこから豊橋駅へ行き、10分歩いて新豊橋駅、そこから豊橋鉄道渥美線で終点の三河田原駅まで行くことになる(約2時間)。そこはいまだ半島の真ん中辺であるから、残りはバスとなる。

海路が意外と近い。近鉄で鳥羽まで行く。そこから伊良湖岬までは伊勢湾を横断するフェリー便があり、1時間弱である。バス便より楽しそう。恩師もこちらのルートを選択したようだ。

伊良湖岬はまえまえから一度訪ねてみたかった。「笈の小文」で芭蕉が訪ねているから。

芭蕉には杜国という愛弟子がいた。当時、杜国は空米を売った罪で死刑になり、その後、罪一等を減じられ、渥美半島に島流しとなっていた(畠村→保美)。芭蕉はその弟子を慰めるために渥美半島を訪ねたのである(以下、引用は『芭蕉紀行文集』(岩波文庫)の「笈の小文」より)。

 三川の國保美といふ處に、杜國がしのびて有けるをとぶらはむと、まづ越人に消息して、鳴海より跡ざまに二十五里尋がへりて、其夜吉田に泊る。

 寒けれど二人寝る夜ぞ頼もしき

 あまつ縄手、田の中に細道ありて、海より吹上る風いと寒き所也。

 冬の日や馬上に氷る影法師

伊良湖岬と伊勢の間の海上交通路は、古代、物流の重要な手段だったようで、伊良湖の窯で焼かれた瓦が伊勢や伊賀を経由して奈良に運ばれ、東大寺の瓦として利用されたのだそう。

伊良湖岬は万葉の時代から伊勢の一部をなす島(博多でいえば、能古島みたいな感じか)と考えられ、万葉の時代から島流しされる場所であったよう。このような歌のやり取りがある(万葉集)。

 天武4年(676年)天武朝の皇族で三位の麻続王が罪をえて伊良湖に流されたとき、里人が哀傷して

 打ち麻を麻続王海人なれや伊良虞の島の玉藻かります 

 王がこれに和して詠んだ歌

 うつせみの命を惜しみ浪にぬれ伊良虞の島の玉藻刈り食す

こうした故事などを踏まえて、「笈の小文」。

 保美村より伊良古崎へ壱里斗も有べし。三河の國の地つづきにて、伊勢とは海へだてたる所なれども、いかなる故にか、万葉集には伊勢の名所の内に入られたり。

鷹(サシバ、ハチクマ)は渡り鳥で、春に来て、秋に南に渡るようだ。伊良湖は渡りの拠点となっていて、大規模な群れがみられるという。

 此渕崎にて碁石を拾ふ。世にいらご白といふとかや。骨山と云は鷹を打處なり。南の海のはてにて、鷹のはじめて渡る所といへり。いらご鷹など歌にもよめりけりとおもへば、猶あはれなる折ふし

 鷹一つ見付けてうれしいらご崎

いらご鷹など歌にもよめりとは、例によって西行の歌のこと。

 すたか渡るいらごが崎をうたがひてなほきにかくる山帰りかな

芭蕉の句にある鷹一つは、杜国を念頭においてのことらしい。いままでであれば、「男色か、気色わるい」という感じだった。しかし、最近は認識を改めなければならないと思うようになった。

若手弁護士らがLGBT差別解消に取り組んでいたり、LGBTの人たちが人口の10%を占めるという啓発広告をみるようになった。いままで迂闊な発言をしていないか反省することしきりである。

陸路だと遠いと思っていたところが、海路だと意外とちかい。LGBTも意外と身近なところにあるのだろう。

2021年9月5日日曜日

アバウト・タイム~愛おしい時間について~



 タイムトラベルものはだいたい好きだ。ドラえもんから受けた教育のせいだろうか。グリムウッドの『リプレイ』はなんども読んだし、北村薫の『スキップ』『ターン』『リセット』三部作も大好きである。

映画『ミッドナイト・イン・パリ』が好きなのは、そのせいもあるかもしれない。1920年代のパリにタイムスリップして、ヘミングウェイやピカソと交流するという筋立てだけで引き込まれてしまう。

おなじころ、BSで『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』をやっていた。これも好きな映画だ。やはりタイムトラベルものだからか、それとも・・・

どちらも主人公の若者のお相手役はレイチェル・マクアダムス。『ミッドナイト・イン・パリ』ではイネス役で、主人公の若者と価値観があわず、ほかの男と浮気をし、別れてしまう。

『アバウト・タイム』では、メアリー役で、ケイト・モスのファンで、主人公ティムと結婚し、愛おしい時間をともに積み上げていく。一人の女優さんがまったく違う役をこなしているのにビックリしてしまう。

『アバウト・タイム』の主役ティムの仕事は法廷弁護士。ティムがそう言うと、メアリーは「キュート」、『法廷でスーツを着て人助けをするなんてキュート」なんて返す。そうかそうか。弁護士はキュートなんだ、知らなかった。よしよし(笑)。

ティムは弁護士なんだけど、女子とのトークが下手。そんなコミュニケーション能力で弁護士としてやっていけるのか・・・。

大事な場面でいつも言い間違える、言ってはならないことを言ってしまう。

ティムには特殊なタイムトラベル能力がある(一家の男だけに伝わる)。かれはそれで過去に戻り、失敗したセリフをなんどもやり直すなかで、なんとか課題をクリアしていく。

女性を口説くときは、もちろん上手くいかない。それだけじゃない。むかし好きだった女性に観劇場でバッタリ出会う。その際、向こうは女性二人連れ。もしかしてゲイかも?この場面では、言ってはいけない言葉がいくつかあるけれど、ついついそればかりを言ってしまう・・・。

こればかりは他人事ではない。弁護士会は4年に一度倫理研修を受けることを義務づけている。ことしのテーマは、法律事務所におけるセクハラ・パワハラの防止。その一貫としてアシュリー・マーデルの『13歳から知っておきたいLGBT+』(ダイアモンド社)を読んでおくよう指導がなされた。

読んでみた。面白く読むことができた。なるほど、人と人とのつきあいは実に多様で自由なんだ。

でも頭の固いわれわれがこの時代の流れにうまく適応できるのか心配にもなった。がんばろう。できることならばキュートに。