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2026年4月13日月曜日

【相続・コラム】相続放棄は認められるか -法定単純承認② 背信行為(民法921条3号)

 【事例】

 洋品店経営者であるXは、Aに対し、各種洋品を売ったり、修繕を行ったりし、これらの売掛代金と修理代金の残額は、合計139万5008円となっていた。Aは、平成9年7月2日に死亡したところ、相続人は、夫、父、母であるYの3人であった。Aは、同月15日、家庭裁判所で相続放棄の申述を行い、同月22日に受理された。

 ところが、Yは、Aの住居であったマンションから、平成9年11月頃、Aのスーツ等や毛皮のコート三着とカシミア製のコート三着等を持ち帰った。これらの多くは新品同様のものであった。

 そこで、Xは、Yの行為は背信行為として法定単純承認の事由にあたると主張して、Yに対し、Aに対する残代金債権のうち、Yの相続分6分の1である23万2501円を請求した。Yの相続放棄は認められないのだろうか。


【解説】

 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(民法896条本文)。つまり、被相続人の資産(プラス)だけでなく、負債(マイナス)も承継してしまう。

 そのため、被相続人について負債超過が見込まれる場合等は、家庭裁判所で相続放棄の申述(民法938条)を行うのが通常である。

 もっとも、相続放棄申述の受理審判に当たっては、法定単純承認事由の有無等に関する実質的要件については、その不充足が極めて明らかな場合に限り審理の対象とすべきと考えられている(裁判例①、②)。

 つまり、相続放棄の申述が受理されたからといって、相続放棄が有効であるとは、必ずしもいえない。

 相続放棄の申述が受理された後であっても、①隠匿、②私に消費すること、③悪意で財産目録中に記載しないこと等の背信行為があれば、相続放棄の効力は認めらない。

 「隠匿」とは、相続債権者から相続財産の所在を不明にすることである。相続人間で遺品を分配する形見分けは含まれないが、所在不明にした相続財産の範囲や量、財産的価値等を考慮し、判断されている。

 【事例】では、Yが持ち帰った遺品の中には新品同様の洋服や毛皮が含まれていたこと、持ち帰った洋服は遺品のほとんどすべてであり相当な量があったこと等を考慮して、「隠匿」にあたると判断された結果、Yの相続放棄は有効と認められず、Xの請求が認められた。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

①仙台高決平成元年9月1日・家月42巻1号108頁

②福岡高決平成2年9月25日・判タ742号159頁

■地方裁判所

③東京地判平成12年3月21日・家月53巻9号45頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

①潮見佳男『新注釈民法⒆ 相続⑴(第2版』(2023、有斐閣)627~633頁

②能見善久、加藤新太郎『論点体系 判例民法11 相続(第4版)』(2024、第一法規)237~239頁、272~274頁

■裁判官・元裁判官

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他


富永

2026年4月9日木曜日

【相続・コラム】相続放棄は認められるか -法定単純承認① 相続財産の処分(民法921条1号)

 【事例】

 被相続人Aは、平成10年4月27日に死亡した。相続人である妻B、長男C、二男Dのうち、AとはB及びCが同居していた。Aは生前、勤務先が倒産した際に保証債務の返還を求められていたことがあるが、昭和62年頃に返済したのを最後に請求はきておらず、Aの債務は完済したと考えていた。

 Aが死亡し、Bらが葬儀を行い、香典として144万円を受領した。また、A名義で預入金額300万円の郵便貯金があった。Bは、平成10年5月27日にその郵便貯金を解約したが、その解約金は302万4825円であった(香典とあわせると446万4825円)。

 Bらは、これらから、Aの葬儀費用等として273万5045円を支出したほか、同年6月に仏壇を92万7150円で購入したうえ、Bの希望で墓石を127万0500円で購入した。これらの合計が493万2695円となるところ、香典とAの郵便貯金の解約金を充て、不足分46万円余りはBらが負担した。

 その後、平成13年10月になって、信用保証協会から、被相続人A宛てに求償金合計5941万8010円の請求書が届き、A名義の多額の債務が残っていたことを知った。

 Bらは、Aの相続放棄をすることができるだろうか。


【解説】

 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(民法896条本文)。つまり、被相続人の資産(プラス)だけでなく、負債(マイナス)も承継してしまう。

 そのため、被相続人について負債超過が見込まれる場合等は、家庭裁判所で相続放棄の申述(民法938条)を行うのが通常である。

 もっとも、亡くなった直後は、死亡届、通夜・葬儀の準備・実施、その他各種手続等に追われ、被相続人の負債に気付かないまま、被相続人の預貯金を解約する等、相続財産を処分してしまうことは少なくない。

 民法は、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」(民法921条1号本文)を法定単純承認の事由とする。つまり、相続財産を処分してしまうと、相続の単純承認をしたとみなされてしまい、相続放棄ができなくなる。

 民法921条1号の「処分」とは、財産の現状・性質を変える行為をいい、法律上の行為のみならず、事実上の行為を含む(家屋の取壊し等)。

 単純承認とみなされる法律上の処分には、貯金の解約、債権の取立て、不動産・動産・その他財産権の譲渡等が含まれる。

 他方、葬儀費用については、被相続人の貯金を解約し、葬儀費用にした場合に、単純承認とみなされる処分に当たらないとした裁判例がある(裁判例①、事例)。



【発展】※専門職向け

 上記裁判例は、相続放棄申述を却下した原審を取り消した即時抗告審の判断である。「相続放棄の申述の受理は、家庭裁判所が後見的立場から行う公証的性質を有する準裁判行為であって、申述を受理したとしても、相続放棄が有効であることを確定するものではない。相続放棄等の効力は、後に訴訟において当事者の主張を尽くし証拠調べによって決せられるのが相当である。」とも判示しており、葬儀費用に充てさえすれば許されると安易に考えることには注意が必要である。


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

①大阪高決平成14年7月3日・家月55巻1号82頁(事例)

■地方裁判所


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

①潮見佳男『新注釈民法⒆ 相続⑴(第2版)』(2023、有斐閣)615~624頁

②能見善久、加藤新太郎『論点体系 判例民法11 相続(第4版)』(2024、第一法規)234~239頁

■裁判官・元裁判官

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他


富永

2023年1月25日水曜日

賃貸借中の土地の明渡事件

 


 土地を賃貸し、賃借人がその土地の上に建物を建築。その方が亡くなり、相続人が複数いらっしゃったが皆、相続放棄をされた。困った賃貸人からご相談・依頼を受けた事案。

賃借人がいなくなった後の賃貸物件の処理をどうするかは悩ましい。がっぷり四つに組まないといけないのは、居住したままの賃料不払い。3ヶ月分滞納したところで催告し、2週間後に契約を解除する。内容証明郵便で。

それでも明渡しがなければ、裁判を起こし、判決をとる。それでも明渡しがなければ、判決に基づき強制執行をすることになる。強制執行は、家財の引越、保管や競売を伴い、手間、ヒマ、費用がかかる力業だ。

夜逃げして行方不明になった場合、もっと悩ましい。契約書には立ち入り、残置動産を処分してもよいなどという約定もある。賃貸人が自分で明渡しを実行してしまうことを、自力救済という。自力救済しても問題とならないケースも多かろう、行方不明なのだから。

しかし弁護士のところへ相談に来られれば、「自力救済は禁じられています。お金と時間と手間はかかるけれども、裁判を起こして判決をとり、これに基づき強制執行したほうがいいですよ。」とアドバイスすることになる。行方不明であるから、裁判は公示送達、欠席判決の方法による。

こんかいは、とても稀なケース。賃貸人が亡くなり、相続人のかたがたが皆、相続放棄をされたのだから。借金などが残るケースでは、相続放棄をすればそれで終わり。しかし、遺産に不動産があるとやっかい。相続財産管理人が管理するまで、それまでの相続人が管理義務を負うことになる。

ある相続人の後見人のかたと協議して、相続管理人を選任してもらい、その方に不動産を管理してもらった。

相続財産管理人は、なんどか現地を訪れ、建物や家財を高く売るべく努力された。しかし、建物は老朽化しており、家財もそれほどペイする見通しはなかった。そのため、建物と家財を賃貸人のほうで買い取ることとなった。代金は滞納賃料と相殺だ。

相続財産管理人は、家庭裁判所が選任する。不動産の売却となれば、家庭裁判所の許可が必要である。もちろん、家庭裁判所の許可を得た上での売買である。

1年ほど時間がかかったが、無事解決した。売買した建物を解体するには相当の費用がかかる。賃貸人としても痛い出費だ。でも納得し満足されたと思う。