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2026年4月17日金曜日

【相続・コラム】遺産分割に関連する付随問題① 葬儀費用

 【事例】

 被相続人Aは、平成18年9月4日に死亡したところ、Aには、X、Yをあわせて7名の子がいた。Yは、同日、夫に頼んでA名義の預貯金から100万円を払い戻してもらい、Aの葬儀費用等の支払いに充てた。その後もYはA名義の預貯金はすべて払い戻して、Aの納骨堂代、納骨壇永代使用料などの支払も行った。そうしたところ、Xは、YによるA名義の預貯金の払戻しが不当であるとして、自身の相続分に応じた額の返還を求めた。被相続人A名義の預貯金から葬儀費用等を支出することは認められないのだろうか。


【解説】

1 葬儀費用

⑴ 意義

 葬儀費用とは、追悼儀式及び埋葬に必要な費用であって、具体的には、棺柩その他の祭具、葬式場設営、読経、火葬、墓標、通夜や告別式の参列者の飲食、納骨堂などに要する費用である。

 他方、墓地の代価、四十九日の法要の費用、葬儀後の見舞客の食事代については範囲外と考えられている(文献③)。

⑵ 遺産分割の対象となるか

 葬儀費用は、相続開始後に発生した費用であるから、遺産分割の対象にならない。ただし、相続人全員の合意により遺産分割事件の対象とすることはできる。

⑶ 葬儀費用の負担者

 遺産分割等において、葬儀費用を誰が負担すべきかをめぐり争いとなることがある。

 葬儀費用の負担者に関しては、

①共同相続人が法定相続分に応じて分割して承継するという見解(相続人全員負担説、裁判例③⑰⑱㉑)

②葬儀を主宰した喪主が負担するという見解(喪主負担説、裁判例⑤⑧㉖)

③相続財産である遺産をもって支出すべきであるとする見解(相続財産負担説、裁判例②⑦⑬⑭⑳㉓㉕)

④専らその地方又は被相続人の属する親族団体内における慣習若しくは条理に従って決めるべきであるとする見解(慣習ないし条理説、裁判例⑥⑨⑮⑯㉒)

などに分かれており、定説をみない状況である。ただし、最近の裁判例(裁判例⑤⑩⑪)は、喪主負担説によるものが多くなってきているとの指摘がある(文献⑤)。

2 香典

 香典は、慣習上香典返しに充てられる部分を控除した残余につき葬儀費用に充てられるが、なお残余金が生じた場合は、葬儀主催者に帰属すると解する見解(文献①)と相続人に帰属するとの見解がある(文献④)。

3 事例について

 事例では、一般論として、葬儀費用は喪主、納骨堂代や永代使用料は祭祀承継者が負担すべきと判示しつつ、相続人間での決算報告に異議が述べられていないこと等、個別の事情を考慮して、葬儀費用、納骨堂代やその永代使用料への支出を不当利得とは認めなかった。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

①東京高決昭和30年9月5日・家月7巻11号57頁

②高松高決昭和38年3月15日・家月15巻6号54頁

③福岡高決昭和40年5月6日・家月17巻10号109頁

④大阪高決昭和49年9月17日・家月27巻8号65頁

⑤名古屋高判平成24年3月29日・判例秘書搭載

■地方裁判所

⑥甲府地判昭和31年5月29日・下民7巻5号1378頁

⑦東京地判昭和59年7月12日・判タ542号243頁

⑧東京地判昭和61年1月28日・家月39巻8号48頁

⑨東京地判平成6年1月17日・判タ870号248頁

⑩東京地判平成27年12月3日・判例秘書搭載

⑪東京地判平成28年11月8日・判例秘書搭載(事例)

■家庭裁判所

⑫東京家審昭和33年7月4日・家月10巻8号36頁

⑬大阪家堺支審昭和35年8月31日・家月14巻12号128頁

⑭東京家審昭和37年9月25日・家月14巻12号116頁

⑮仙台家古川支審昭和38年5月1日・家月15巻8号106頁

⑯神戸家明石支審昭和40年2月6日・家月17巻8号48頁

⑰福井家審昭和40年8月17日・家月18巻1号87頁

⑱長崎家佐世保支審昭和40年8月21日・家月18巻5号66頁

⑲大阪家審昭和40年11月4日・家月18巻4号104頁

⑳盛岡家審昭和42年4月12日・家月19巻11号101頁

㉑神戸家姫路支審昭和43年2月29日・家月20巻8号88頁

㉒宇都宮家栃木支審昭和43年8月1日・家月20巻12号102頁

㉓大阪家審昭和51年11月25日・家月29巻6号27頁

㉔長崎家審昭和51年12月23日・家月29巻9号110頁

㉕大阪家審昭和53年9月26日・家月31巻6号33頁

㉖神戸家審平成11年4月30日・家月51巻10号135頁


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①井上繁規『(三訂版)遺産分割の理論と実務』(2021、新日本法規)203~205頁

②岡口基一『要件事実マニュアル第5巻 家事事件・人事訴訟(第7版)』(2024、ぎょうせい)449頁

③司法研修所『遺産分割事件の処理をめぐる諸問題』(1994、法曹会)255~256頁

④片岡武、管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第4版)』(2021、日本加除出版)80~81頁

⑤田村洋三、小圷眞史ほか『実務 相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル(第3版)』(2020、日本加除出版)47頁、488~499頁

⑥松本哲泓『設例解説 遺産分割の実務 ー裁判官の視点による事例研究-』(2024、新日本法規) 176~177頁

⑦山城司『Q&A 遺産分割事件の手引き』(2022、日本加除出版)177~180頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他


富永

2026年4月13日月曜日

【相続・コラム】相続放棄は認められるか -法定単純承認② 背信行為(民法921条3号)

 【事例】

 洋品店経営者であるXは、Aに対し、各種洋品を売ったり、修繕を行ったりし、これらの売掛代金と修理代金の残額は、合計139万5008円となっていた。Aは、平成9年7月2日に死亡したところ、相続人は、夫、父、母であるYの3人であった。Aは、同月15日、家庭裁判所で相続放棄の申述を行い、同月22日に受理された。

 ところが、Yは、Aの住居であったマンションから、平成9年11月頃、Aのスーツ等や毛皮のコート三着とカシミア製のコート三着等を持ち帰った。これらの多くは新品同様のものであった。

 そこで、Xは、Yの行為は背信行為として法定単純承認の事由にあたると主張して、Yに対し、Aに対する残代金債権のうち、Yの相続分6分の1である23万2501円を請求した。Yの相続放棄は認められないのだろうか。


【解説】

 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(民法896条本文)。つまり、被相続人の資産(プラス)だけでなく、負債(マイナス)も承継してしまう。

 そのため、被相続人について負債超過が見込まれる場合等は、家庭裁判所で相続放棄の申述(民法938条)を行うのが通常である。

 もっとも、相続放棄申述の受理審判に当たっては、法定単純承認事由の有無等に関する実質的要件については、その不充足が極めて明らかな場合に限り審理の対象とすべきと考えられている(裁判例①、②)。

 つまり、相続放棄の申述が受理されたからといって、相続放棄が有効であるとは、必ずしもいえない。

 相続放棄の申述が受理された後であっても、①隠匿、②私に消費すること、③悪意で財産目録中に記載しないこと等の背信行為があれば、相続放棄の効力は認めらない。

 「隠匿」とは、相続債権者から相続財産の所在を不明にすることである。相続人間で遺品を分配する形見分けは含まれないが、所在不明にした相続財産の範囲や量、財産的価値等を考慮し、判断されている。

 【事例】では、Yが持ち帰った遺品の中には新品同様の洋服や毛皮が含まれていたこと、持ち帰った洋服は遺品のほとんどすべてであり相当な量があったこと等を考慮して、「隠匿」にあたると判断された結果、Yの相続放棄は有効と認められず、Xの請求が認められた。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

①仙台高決平成元年9月1日・家月42巻1号108頁

②福岡高決平成2年9月25日・判タ742号159頁

■地方裁判所

③東京地判平成12年3月21日・家月53巻9号45頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

①潮見佳男『新注釈民法⒆ 相続⑴(第2版』(2023、有斐閣)627~633頁

②能見善久、加藤新太郎『論点体系 判例民法11 相続(第4版)』(2024、第一法規)237~239頁、272~274頁

■裁判官・元裁判官

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他


富永

2026年4月9日木曜日

【相続・コラム】相続放棄は認められるか -法定単純承認① 相続財産の処分(民法921条1号)

 【事例】

 被相続人Aは、平成10年4月27日に死亡した。相続人である妻B、長男C、二男Dのうち、AとはB及びCが同居していた。Aは生前、勤務先が倒産した際に保証債務の返還を求められていたことがあるが、昭和62年頃に返済したのを最後に請求はきておらず、Aの債務は完済したと考えていた。

 Aが死亡し、Bらが葬儀を行い、香典として144万円を受領した。また、A名義で預入金額300万円の郵便貯金があった。Bは、平成10年5月27日にその郵便貯金を解約したが、その解約金は302万4825円であった(香典とあわせると446万4825円)。

 Bらは、これらから、Aの葬儀費用等として273万5045円を支出したほか、同年6月に仏壇を92万7150円で購入したうえ、Bの希望で墓石を127万0500円で購入した。これらの合計が493万2695円となるところ、香典とAの郵便貯金の解約金を充て、不足分46万円余りはBらが負担した。

 その後、平成13年10月になって、信用保証協会から、被相続人A宛てに求償金合計5941万8010円の請求書が届き、A名義の多額の債務が残っていたことを知った。

 Bらは、Aの相続放棄をすることができるだろうか。


【解説】

 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(民法896条本文)。つまり、被相続人の資産(プラス)だけでなく、負債(マイナス)も承継してしまう。

 そのため、被相続人について負債超過が見込まれる場合等は、家庭裁判所で相続放棄の申述(民法938条)を行うのが通常である。

 もっとも、亡くなった直後は、死亡届、通夜・葬儀の準備・実施、その他各種手続等に追われ、被相続人の負債に気付かないまま、被相続人の預貯金を解約する等、相続財産を処分してしまうことは少なくない。

 民法は、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」(民法921条1号本文)を法定単純承認の事由とする。つまり、相続財産を処分してしまうと、相続の単純承認をしたとみなされてしまい、相続放棄ができなくなる。

 民法921条1号の「処分」とは、財産の現状・性質を変える行為をいい、法律上の行為のみならず、事実上の行為を含む(家屋の取壊し等)。

 単純承認とみなされる法律上の処分には、貯金の解約、債権の取立て、不動産・動産・その他財産権の譲渡等が含まれる。

 他方、葬儀費用については、被相続人の貯金を解約し、葬儀費用にした場合に、単純承認とみなされる処分に当たらないとした裁判例がある(裁判例①、事例)。



【発展】※専門職向け

 上記裁判例は、相続放棄申述を却下した原審を取り消した即時抗告審の判断である。「相続放棄の申述の受理は、家庭裁判所が後見的立場から行う公証的性質を有する準裁判行為であって、申述を受理したとしても、相続放棄が有効であることを確定するものではない。相続放棄等の効力は、後に訴訟において当事者の主張を尽くし証拠調べによって決せられるのが相当である。」とも判示しており、葬儀費用に充てさえすれば許されると安易に考えることには注意が必要である。


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

①大阪高決平成14年7月3日・家月55巻1号82頁(事例)

■地方裁判所


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

①潮見佳男『新注釈民法⒆ 相続⑴(第2版)』(2023、有斐閣)615~624頁

②能見善久、加藤新太郎『論点体系 判例民法11 相続(第4版)』(2024、第一法規)234~239頁

■裁判官・元裁判官

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他


富永

2026年4月5日日曜日

【相続・コラム】いわゆる使途不明金問題について② 相続開始後の払戻し

 【事例】

 被相続人Aは、平成26年10月11日に死亡したところ、その子であるYは、同月12日以降、4回に渡り、A名義の普通預金口座から、合計259万6000円を出金し、同出金に伴う手数料合計432円が同口座から支払われた。被相続人Aの子であるX(相続人はXとYの2名のみ)は、Yに対して、何らかの請求をすることができるだろうか。


【解説】

1 概要

 相続開始の前後に被相続人名義の預金が払い戻されることがあり、使途不明金問題と呼ばれている。

2 相続開始後の払戻し

⑴ 分割の対象となる遺産の範囲-預貯金債権

 現在は、預貯金債権について、不可分債権であり、遺産分割の対象となるとされている(判例②~④)。

 そのため、原則として、遺産分割の前には、共同相続人全員の同意を得なければ、預貯金の払戻しをすることができない。 

⑵ 単独の権利行使による払戻し

 各相続人は、預貯金債権のうち、相続開始時の債権額の3分の1に当該相続人の法定相続分を乗じた額(ただし各金融機関ごとに150万円が上限)を、単独で払い戻すことができる。払い戻した分については、当該相続人が遺産の一部分割によりこれを取得したものとみなされる(民法909条の2)。

 払戻しがされたものは、すでに分割済みのものとなり、遺産分割の対象とはならない。もっとも、これを遺産分割の対象に含めることを相続人全員で合意することもできる(判例①)。

⑶ ⑵以外の払戻し

 金融機関が相続の開始を知った場合、金融機関は預貯金口座を閉鎖し、払戻しができなくなるが、金融機関が相続開始を知るまでの間は、被相続人以外の者による預貯金の払戻しがされる余地がある。

 遺産である預貯金債権が、遺産分割前に払い戻されると、預貯金債権そのものは遺産分割の対象から逸出する。これに代わる無断払戻者に対する損害賠償請求権や不当利得返還請求権を相続財産の代償財産ということはできるが、これらは可分債権であるから、原則として遺産分割の対象とならない。民事訴訟による解決となる。

 無断払戻者以外の相続人の同意が得られれば、その財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなし、それを当該払戻しをした相続人に取得させる(民法906条の2)。

3 事例について

 被相続人Aの死後に出金された金額等は、合計259万6432円であった。そのため、Xは、法定相続分2分の1に相当する129万8216円をYに対して請求できると判断された。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

①最小判昭和54年2月22日・集民126号129頁

②最小判平成22年10月8日・民集64巻7号1719頁

③最大決平成28年12月19日・民集70巻8号2121頁

④最小判平成29年4月6日・集民255号129頁

■高等裁判所

■地方裁判所

⑤東京地判令和3年9月28日・判時2528号72頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

①潮見佳男『新注釈民法⒆ 相続⑴(第2版)』(2023、有斐閣)398~408頁、497~514頁

■裁判官・元裁判官

②井上繁規『遺産分割の理論と審理(第3版)』(2021、新日本法規)239~240頁

③岡口基一『要件事実マニュアル第5巻 家事事件・人事訴訟(第7版)』451~452頁

④片岡武、管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第4版)』(2021、日本加除出版)76~80頁

⑤田村洋三、小圷眞史ほか『実務 相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル(第3版)』(2020、日本加除出版)214~219頁

⑥松本哲泓『設例解説 遺産分割の実務 -裁判官の視点による事例研究-』(2024、新日本法規)169~170頁、188~195頁

⑦山城司『Q&A 遺産分割事件の手引き』(2022、日本加除出版)163~172頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他


富永

2026年4月1日水曜日

【相続・コラム】いわゆる使途不明金問題について① 相続開始前の払戻し

 【事例】

 被相続人Aは、平成26年10月11日に死亡したところ、その子であるYは、Aの生前に、Aの預貯金を引き出したり、Aの保険契約の保険金受取人を変更したりし、それによりYは9844万0804円の利益を得たところ、同額のうち9433万5315円は、Aの許諾を得ていたものではなかった。被相続人Aの子であるX(相続人はXとYの2名のみ)は、Yに対して、何らかの請求をすることができるだろうか。


【解説】

1 概要

 相続開始の前後に被相続人名義の預金が払い戻されていることがあり、使途不明金問題と呼ばれている。

2 相続開始前の払戻し

⑴ 無断での払戻し

 被相続人の生前に、被相続人の一人が被相続人の預貯金を無断で払い戻した場合、被相続人の当該相続人に対する不当利得返還請求権(又は不法行為に基づく損害賠償請求権)が発生し、これが、被相続人の死亡により、各共同相続人に当然分割されるのが原則である。

⑵ 委託を受けた払戻し

 払戻しが無断ではなければ、寄託金返還の問題となる(裁判例②)。

⑶ 被相続人からの贈与

 被相続人の了解のもと預貯金が払い戻され、特定の相続人が贈与を受けた場合は、特別受益の問題になる。

3 分割の対象となる遺産の範囲-金銭債権

 上記2⑴⑵の場合、共同相続人は被相続人の有する金銭債権を相続することになる。そして、金銭その他の可分債権は、相続開始とともに法律上当然に分割される(判例①)。

4 事例について

 被相続人Aの生前にYがAの許諾なく預貯金を引き出したりした使途不明金の額は、9433万5315円であった。そのため、Xは、法定相続分2分の1に相当する4716万7657円をYに対して請求できると判断された。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

①最小判昭和29年4月8日・民集6巻4号819頁

■高等裁判所

②東京高判令和4年4月28日・判タ1517号105頁

■地方裁判所

③東京地判令和3年9月28日・判時2528号72頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①井上繁規『遺産分割の理論と審理(第3版)』(2021、新日本法規)183~187頁

②岡口基一『要件事実マニュアル第5巻 家事事件・人事訴訟(第7版)』(2024、ぎょうせい)451~452頁

③司法研修所『遺産分割事件の処理をめぐる諸問題』(1994、法曹会)245~246頁

④片岡武、管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第4版)』(2021、日本加除出版)76~78頁

⑤田村洋三、小圷眞史ほか『実務 相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル(第3版)』(2020、日本加除出版)214~219頁

⑥松本哲泓『設例解説 遺産分割の実務 ー裁判官の視点による事例研究-』(2024、新日本法規)184~188頁

⑦山城司『Q&A 遺産分割事件の手引き』(2022、日本加除出版)159~162頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他

⑧関戸勉、福澤武文ほか『相続・遺言を巡る法律問題 弁護士が知識と経験で解決した困難事例』(2020、第一法規)3~11頁

⑨本橋総合法律事務所『Q&Aと事例 相続における使途不明金をめぐる実務』(2025、新日本法規)


富永

2025年3月5日水曜日

ある相続・遺産分割事件(解決)

 

 ある相続・遺産分割事件が解決した。長くかかった。

 被相続人は、依頼人Aの父である。母はすでに亡く、兄弟姉妹が1人Bである。

 長くかかった原因の1つは、この父が3度婚姻し、それぞれの婚姻(前妻、前々妻)について子がいたためである。前々妻の子が1人C、前妻の子が2人DEである。依頼人からみて、CDEはいわゆる腹違いの兄弟姉妹である。つまり、相続人はABCDEの5人である。

 腹違いの兄弟姉妹のことを、民法は「父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹」と定義している。CDEはこれにあたる。依頼人AとBは「父母の双方を同じくする兄弟姉妹」である。民法は、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分について、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とすると定めている。

 その結果、相続分はA2/7、B2/7、C1/7、D1/7、E1/7となる(分数が苦手だと、ここでつまづいてしまう。ついてこれるかな?)。途中でEがDに相続分を譲渡したので、相続分はA2/7、B2/7、C1/7、D2/7となった(ややこしや)。

 長くかかった原因の2つは、遺産の内容が変化したからである。当初、不動産は被相続人の単独占有という前提で協議をしていたところ、途中で共有持分であることが判明した。たくさんある遺産のなかの一部であるとはいえ、当職の確認もれである(ここには書けない事情もあった。)。

 長くかかった原因の3つは、依頼人が途中で怪我をし入院されたからである。社会の高齢化にともない、このような事象が増えている。退院後も、松葉杖をつきながらの打合せでたいへんである。

 長くかかった原因の4つは、他の相続人の意向により、他の相続人の意向が変化したことである。当初は要らないと意向を表明していた人が、他の相続人が要ると表明したことを知って、それなら自分もいるという具合である。

 長くかかった最大の原因は、前妻の関係の相続がからんできたことである。相手方は別途解決を望んだが、当方は同時解決を希望した。この調整に手間取った。

 遺産分割協議終了後も、遺産を換金するのに時間がかかった。当職らが作成した書類について、まず法務局の不動産登記はすんなり受け付けてもらえた。しかし金融機関や証券会社はなんやかやと主張し、なかなか換金に応じてくれなかった。

 以上の諸要因により、長くかかった。長くかかったが無事解決することができた。めでたし、めでたし。

2023年12月12日火曜日

最近解決した遺産分割調停事件5件

 

 ここのところ遺産分割調停事件がつづけざまに5件解決した。

遺産分割事件は、相続人の数・親疎と遺産の内容によって難しさが決まる。相続人の数が増えれば増えるほど、相続人どうしが親しくなければないほど困難さは増す。ときには数次相続など、被相続人が複数いらっしゃる場合もある。遺産の内容が現金だけであれば分割しやすいし、不動産だけであれば分割が困難だ。

1件目。相続人は伯母と姪2人、福岡と関東であまり交流はなかった。福岡の伯母から依頼を受けた。遺産は比較的広い土地がひとつだけ。現物分割といって、不動産を2筆に分割した。問題は分割の仕方である。相手は2等分を要求し、当方は広い道に接しているほうを狭くする案を提案した。交渉が決裂したので、調停を申し立てた。結局、当方の案が通った。

2件目・3件目。被相続人がお二人。相続人は共有している方々とそうでない方々に分かれた。どちらもめぼしい遺産は不動産のみ。これらも交渉で解決できず、調停となった。遺産を売却して、代金から経費を差し引き、残ったお金を分配した(換価分割)。争いになったのは経費のなかみ。不動産を売却するのだから、建物解体費、残置動産(家財道具)の処分費用、測量費、譲渡所得税・市県民税・税理士費用、登記費用はOKとなったが、弁護士費用はダメとおっしゃるかたがいたのでその方の分だけ控除できなかった。

4件目。相続人は5人。被相続人と懇意にしていた方が当職の依頼人。遺産は主に不動産。相続開始後、近所のクレームを受け、不動産の管理費を支出されていた。これも調停に。他の相続人は、4人のうち、1人は成年後見人が、1人は未成年後見人がついておられた。さらに1人は東京の方で、一度も出席されなかった。難しかったのは後見人の先生方。不動産を売却して分配しようとしたが、経費についてうるさく注文をつけ、代償金による解決を要求した(代償金分割)。依頼人の了解を得て、なんとか解決することができた。

5件目。相続人は妻、子二人。子の一人から依頼を受けた。交渉で解決せず、遠方の家庭裁判所に調停を申し立てた。遺産は主に不動産。不動産の価格が主な争点となった。遠方の不動産ゆえ、時価の把握が困難だった。また相手方から、新民法で新たに創設された配偶者居住権の主張がなされた。協議を重ねるうち、相手の譲歩を引き出すことができ、無事解決することができた。

福岡市や筑紫地区は不動産市場がひきしまっていて、売りに出せばすぐに買い手がつく。そして比較的高値で売れることが多い。そうでない場合に比べて、遺産分割事件を解決しやすい。現金は分割しやすい。不動産は分割しにくい。売買できれば不動産が現金に変わるわけだから、遺産分割が容易になる。

しかし逆に困難になる場合がある。未解決な事件はそんなケースだ。現物分割や換価分割ができればよい。しかし代償金分割となると、不動産の評価があまりに高いと代償金が用意できなくなってしまうからだ。このため、ある事件がいまだ解決できず調停がつづいている。解決できた暁にはまた報告したい。

2023年2月9日木曜日

不動産鑑定立会い

 


 きのうは不動産鑑定の立会いだった。遺産分割調停で、被相続人が所有していた不動産(土地・建物)の価格が争点になった。

不動産の価格は時価。売って分けるのであれば、時価は売ってみれば分かる。

売らないで分けるとなれば、評価が必要になる。一般的には、市町村が行っている固定資産税評価による。市役所の税務課に行けば、取得することができる。

市町村は、その税収の一つである固定資産税を課税する前提として固定資産税の評価をしなければならない。不動産鑑定士らに依頼して3年ごとに路線価を調査する。その結果の7割が固定資産税評価である。

たとえば、時価100万円と認められれば、固定資産税評価は70万円である。固定資産税評価の物件は0.7で割り戻せば時価を求めることができる。

家裁の実務では時価ではなく、固定資産税評価額のまま調停を進めることが多い。時価で売却しても、不動産仲介手数料、境界測量費用、譲渡所得税等もろもろの経費がかかるので、手残りは時価の7割程度になるからである。

固定資産税評価のほか、相続税評価というのもある。税務署が相続税を課税する前提となる評価である。時価の8割程度と言われる。

調停の当事者のどちらかが、それら評価に納得しなければ、不動産鑑定を申し立てることになる。

遺産分割調停であるから、当事者は兄弟あるいは親族である。不動産鑑定までしなくてもよいではないかと思うが、最近は紛争が激烈で不動産鑑定が必要となることが多い。

不動産鑑定は、不動産鑑定士という専門職が行う。書面だけで評価するのは乱暴だから現地調査も行う。建物が図面どおりかとか、痛み具合はどうかなど現地でないと分からない情報を収集する。きのうのはそれである。

弁護士の立会いが必要かというと必ずしもそうではない。しかし当事者としては心配であるから弁護士の立会いを希望されることが多い。

あいまあいまに雑談をしながら、鑑定士の質問等に回答する。そして依頼人によい結果がでることを祈る。

2023年1月25日水曜日

賃貸借中の土地の明渡事件

 


 土地を賃貸し、賃借人がその土地の上に建物を建築。その方が亡くなり、相続人が複数いらっしゃったが皆、相続放棄をされた。困った賃貸人からご相談・依頼を受けた事案。

賃借人がいなくなった後の賃貸物件の処理をどうするかは悩ましい。がっぷり四つに組まないといけないのは、居住したままの賃料不払い。3ヶ月分滞納したところで催告し、2週間後に契約を解除する。内容証明郵便で。

それでも明渡しがなければ、裁判を起こし、判決をとる。それでも明渡しがなければ、判決に基づき強制執行をすることになる。強制執行は、家財の引越、保管や競売を伴い、手間、ヒマ、費用がかかる力業だ。

夜逃げして行方不明になった場合、もっと悩ましい。契約書には立ち入り、残置動産を処分してもよいなどという約定もある。賃貸人が自分で明渡しを実行してしまうことを、自力救済という。自力救済しても問題とならないケースも多かろう、行方不明なのだから。

しかし弁護士のところへ相談に来られれば、「自力救済は禁じられています。お金と時間と手間はかかるけれども、裁判を起こして判決をとり、これに基づき強制執行したほうがいいですよ。」とアドバイスすることになる。行方不明であるから、裁判は公示送達、欠席判決の方法による。

こんかいは、とても稀なケース。賃貸人が亡くなり、相続人のかたがたが皆、相続放棄をされたのだから。借金などが残るケースでは、相続放棄をすればそれで終わり。しかし、遺産に不動産があるとやっかい。相続財産管理人が管理するまで、それまでの相続人が管理義務を負うことになる。

ある相続人の後見人のかたと協議して、相続管理人を選任してもらい、その方に不動産を管理してもらった。

相続財産管理人は、なんどか現地を訪れ、建物や家財を高く売るべく努力された。しかし、建物は老朽化しており、家財もそれほどペイする見通しはなかった。そのため、建物と家財を賃貸人のほうで買い取ることとなった。代金は滞納賃料と相殺だ。

相続財産管理人は、家庭裁判所が選任する。不動産の売却となれば、家庭裁判所の許可が必要である。もちろん、家庭裁判所の許可を得た上での売買である。

1年ほど時間がかかったが、無事解決した。売買した建物を解体するには相当の費用がかかる。賃貸人としても痛い出費だ。でも納得し満足されたと思う。

2022年12月5日月曜日

行方不明の相続人との間の遺産分割協議事件

 

 行方不明の相続人との間の遺産分割協議が成立した。話を簡単にするために、亡くなった被相続人をA、相続人をBとC、そのうちCが行方不明であるとしよう。

Aの遺産は不動産(自宅と貸家)と預貯金。遺言書があれば別だが、一般的には、BとCの実印を捺した遺産分割協議書と各自の印鑑証明が必要である。それがなければ不動産の名義変更はできないし、預貯金の払戻しもできない。

本件ではBから依頼を受けた。Cはもう20年以上行方不明。まずはCの住民票の所在地を調査する。関西のある都市Dにある集合住宅にあることが分かった。その住所宛に手紙(内容証明郵便)を出すと、集合住宅の管理者から戻されてきた。つまり、Cは住民票上の住所に住んでいないということだ。

このような場合どうするか。民法は不在者財産管理人という制度を用意している(25条1項)。

Dを管轄する家庭裁判所に対し、Cの不在者財産管理人を選任するよう申し立てた。家庭裁判所も、Cが不在者であるかどうか独自の調査を行ったようだ。かなり時間が経ったので、何度か裁判所に問い合わせると、詳細は教えてくれないが、それらしきことを説明してくれた。

実は、その過程で、あるトラブルが発生した。詳細は例によって守秘義務により説明できない。あれこれ想像してくだされ。

調査の結果、不在者であると認められた。不在者財産管理人として、D地区で開業しているE弁護士が選任された。E弁護士だからといって、いー弁護士とは限らないが、事案の性質上、クセのないよい先生だった。

管理人の費用は行方不明者のCに負担させることができない。やむなくBに負担していただくことになる。つまり、相続人のなかに行方不明者がいると、2人分の弁護士費用がかかるということだ。

あとはE弁護士との間で遺産分割協議書を取り交わした。行方不明者と遺産分割協議を行う場合、帰来時清算型の遺産分割をすることがある。家庭裁判所と協議したが、それが許されるのは遺産の取得分が100万円以下のときに限られるという。本件では使えない。

やむなく、Bが全遺産を取得し、その代償金として、遺産の半分に相当する額をE弁護士の預り口宛に振込送金するという内容の遺産分割とした。

先ごろ、不動産の名義変更の登記、預貯金の払戻しと代償金の送金も終え、本依頼事件は無事終結した。

あと残るのは、不在者財産管理人が預かっている上記代償金の行方である。この点についても、民法は失踪宣告という制度を用意している(30条1項)。

不在者の生死が7年間明らかでいないときは、家庭裁判所は失踪の宣告をすることができる。その宣告を受けた者は7年の期間が満了した時に死亡したものとみなされる(31条)。

いつからこの7年を数え始めるのかという問題がある。Cはもう20年以上行方不明なわけだから、すでに7年を経過しているといえなくもない。しかし、これは認められていない。本件ではD地区に住民票があり、職権消除されていないことから分かるように、最近まで生きていたことが判明している。

必須ではないが、一般に、失踪を裏付ける資料として、警察に行方不明者届を提出しなければならない。本件でもその手続を行った。あとは7年間の経過を待つほかない。

なお、行方不明者との離婚、行方不明者に対する不動産登記手続請求などについては、ケース・バイ・ケースであるが、公示送達や欠席判決制度を利用することができる。これらの点はまた別の機会に。

2022年5月31日火曜日

幹を理解する


 きょうから6月。6月は恋愛の季節だと言っていたが、ほんとうだろうか。ギリシア・イタリアのように乾燥した気候ならともかく。暑くてしょうがない=アツくてしょうがないという洒落かな。

写真は戒壇院のクワの実。赤い実と紫の実がなっている。ギリシア神話には「ピュラモスとティスベ」という悲恋話がある。それによると、赤と紫は二人の血の色らしい。桑の花言葉は「知恵」。

さて一般に弁護士の仕事は相談からはじまる。警察に逮捕されたから留置場に面会にきてくれというのは例外だ。

六法というのは文字どおりルール・ブック。野球やサッカー、将棋やトランプのルールとおなじだ。ルールを曲げることはできない。何百人もの国会議員がつくった法律を1人の裁判官が曲げることはできない。難しくいれば三権分立だ。

相談からいきなり裁判を起こすということはない(起こされている場合は別だ。)。まずは交渉してみる。しかし、交渉で解決しなければ裁判になる。その場合、裁判官がルールを曲げることはないとなれば、交渉だからといってルールを曲げることはできない。

まずはそのことを理解してもらう必要がある。たとえば、共同相続。農家の長男からすれば、納得できないかもしれないけれども、このルールは曲げられない。それはおかしいと何度も押し問答になる。しかしここは譲れない。

紛争の構造は、概ねツリー状になっている。話せば長くなるけれども、要はこうだと幹をとらえてほしい。それなのに、枝葉に気をとられて、なんど説明しても幹を把握できないことがある。

最近は、インターネットの普及により、事前に学習してこられる方が増えた。当該ケースでは無関係の質問をたくさんされる。それにお答えしてもよいのだけれども、脇道にそれてしまって、根幹の理解がおろそかになってしまう。そのようにご説明するのだけれども、枝葉への興味が尽きない。・・・

問題解決は引越とおなじですよ。まずは大きな家具の置き場所を決めないと、ゴミ箱はあとからでもよいでしょ。そのようにも説明する。人間の思考にはメモリィなどの制約から、すべての問題をいちどに考えることができない。それで問題解決にはプライオリティを決めることが重要になる。それでも、どうしてもゴミ箱をどこに置くかが気になってしょうがない。・・・

弁護士37年。弁護士の仕事でいちばん難しいのは、やはり相談だと思う。

2021年11月30日火曜日

ある損害賠償被請求事件


  いよいよ師走。マスコミは毎日、オミクロン株の小ネタの報道に忙しい。徒にこれら報道に振り回されず、われわれの人生を破壊されないよう行動するしかあるまい。

 きのうにひきつづき、ある損害賠償被請求事件。といっても、実態はやはり遺産分割事件。被相続人である祖母の遺産を使い込んだだろうと主張して、甥(祖母の長男の子)が叔母(祖母の次女)にたいし損害賠償を請求した事案である。

むかしはこのタイプの紛争はおおくはなかった。しかし、高齢化がすすみ、被相続人が認知症などで生前に財産管理能力を失う事例が増えた。そのため、財産管理能力を失った後の支出が違法な使い込みではないかとして争われるようになったのである。

わが事務所は地域事務所であるので、請求する側から依頼を受けることもあるし、請求される側から依頼を受けることもある。ケース・バイ・ケースであるが、まず一定期間の財産管理の事実を認めるかどうかが大きい。

裁判所の対応も当初、裁判官によって異なる印象であった。最近は、請求する側に厳しくなりつつあるように思う。それはそうだ。これは立証責任が請求する側にあるという原則の帰結である。またそうでないと、被相続人の老後のめんどうをみた人がバカを見ることになる。

本件でもそうだ。叔母が祖母のめんどうをみていた。生前、甥は何らのめんどうもみていなかった。ところが祖母が亡くなったあと突然、甥は祖母思いの孫に変身し、学生時代に祖母から電話できいた断片情報を拡大解釈してはじめたのである。

甥は埼玉県に在住していたことから、さいたま地方裁判所に訴えられた。おおむねオンラインで対応できたが、証人尋問の際は緊急事態宣言下、同地裁まで出張しなければならなかった。

このとき、叔母本人と証人とは福岡地裁に出張し、ビデオ尋問方式がとられた。結果的に、代理人の弁護士がコロナに感染するのはやむを得ないけれども、当事者が感染するのは困るという形になった。いまではよい思い出だが、当時は命がけの思いだった。

裁判所から何度か和解勧告がなされた。が、甥側はこれを拒否。その結果、こちらの勝訴判決がなされた(遺産が一部残るかたちになったので、その部分の不当利得返還請求、実質的な遺産分割請求は認められた。)。

甥は納得せず、東京高等裁判所に控訴。高裁からは細かい求釈明を受け、これに対応した。さすが東京高裁である。隅々まで目を光らせているという感じ。

結果は、ほぼ控訴棄却。当方のほぼ全面勝訴である。「ほぼ」とあるのは、先の細かい支出を指摘され、一審より数万円の増額となったから。

双方とも上告せず、東京高判は確定した。これで解決かと思いきや、相手方から不満をぶちまけた感じの手紙が届いた。困ったものだ。法治国家における裁判制度のことが分かっていない。しばらくは様子をみるしかあるまい。

2021年11月29日月曜日

ある遺産分割調停事件

 きのうはある遺産分割調停事件が解決した。裁判所における調停条項のほかに、調停外で合意書を締結した。昨年4月に受任しているので、解決までに1年半以上かかっている。

依頼人の関係者が自分の関係者の知りあいであったりして、気をつかう事件だった。地域に根ざして長らくやっていると、こういう事件が増えてくる。

正式に調停の土俵にのっている被相続人は一人だが、最終的には3人の被相続人の相続事件について全面解決した。兄弟姉妹間の争いであり、実家に相手方の経営する会社の住所があったりして、いろいろと複雑な権利関係にあった。

調停は基本的には話合いであるので、当事者が納得すればどのような解決でもOK。しかし話合いがまとまらなければ決裂し、審判や裁判になる。

審判や裁判になったらどうなるという見通しを北極星として、そこを着地点として見据えて話合いをすすめていくことになる。審判や裁判は裁判官がすることなので、予想が100%正答するということはない。ときに、外れることもありうる。そこが難しい。

むろん、証拠の有無が大事で、最後はものを言うことになる。本件でもやはり証拠の有無が問題になりなった。同じ事案について双方に弁護士がついて見解がわかれるのは、この証拠の評価が異なるからであることが多い。

相手方からは5,000万円もの請求がなされたけれども、それを裏付ける証拠はうすいようだった。それで、相手方の要求は、一部をのぞき、つっぱねる方向での話合いを続けた。

結果、5,000万円の支払いはしないで解決することができた。一部をのぞき、ほぼ完勝。めでたし、めでたし。

※写真は先日のほぼ皆既月食。

2021年9月12日日曜日

最近の読書から

 

「弁護士に頼むなんて、そんな恐ろしいことしないで」

「弁護士なんか入れたら穏便にはいかないわよ。」

(朱野帰子さん『真壁家の相続』より)


・・・なんか、すみません。


富永

2021年9月7日火曜日

法律相談はむずかしい


  弁護士の仕事のうちで、弁護士になりたてのころは反対尋問などがむずかしく感じる。しかし、さいきんはほんとうにむずかしいのは法律相談だと思う。

きのう、ある相談があった。おなじ相談者のかた、かつ、おなじ事案で3度目だ。なぜか。まず、紛争内容が不確実で不確定である。

ある土地を複数の人間で共有している事案だ。共有地の処分は全員一致が必要なので、自分だけでは決められない。

なかには亡くなっている人も複数いて、相続関係が整理されていない。さらに、全員が相続放棄をしている当事者もいる。相続財産管理人の選任が必要である。それには手間と費用がかかる。

つぎに土地の価格であるが、ある当事者からある価格が示されている。しかし、インターネットで近隣の価格を調べると、その4倍くらいはしそうである。

またこの土地のうえには解体が必要な建物が建っていて、所有者が別である。そしてこちらも相続が発生している。建物の中には亡くなった方の家財が存在している。どうも水害にも遭ったらしい。建物の解体や家財の処分が必要だが、その費用がはっきりしない。

やむをえず変数は変数として説明するのであるが、変数のままではなかなか理解しづらい。土地の価格も上ものの処分価格も両方とも変数だからなおさらだ。

物件の価格がそれなりであれば、方針選択はそれほどむずかしくない。しかし損得微妙だと、とてもむずかしい。費用を払って弁護士に依頼する事案かどうか、さらに微妙である。

民法は紛争解決のルールを定めている。トランプのルールのようなものである。遺産分割協議などで、主として長男がこのルールに納得されないことがある。しかし、民法は何百人という国会議員が決めたものなので、いち裁判官、いち弁護士が変えられるものではない。

もちろんすべての当事者が納得すれば、そのようなルールにしたがう必要はない。しかし一人でも反対者がいれば、民法のルールどおりに解決することになる。そのアンパイヤが裁判官である。

共有物に関する紛争解決ルールは、共有物分割請求をおこなうか、持分を放棄するかである。持分の放棄は、この紛争から早期に離脱するよい手段である。しかし、損得の勘定がわからなければ決められない。

などなど説明して、すっぱり理解されるかたはすくない。こちらの説明が終わったとたん、いちばん最初の質問をされることがすくなくない。30分の説明が無駄だったということが分かる。

細かな点まで正確で丁寧な説明がよいかどうかはケース・バイ・ケースだ。細かな説明の理解が難しければ、ざっくり説明するしかない。それでざっくり説明してみた。するとやはり、またいちばん最初の質問をされた。う~ん。

法律相談のむすびは対応方針について選択肢を示すことになる。作戦Aと作戦Bだ。作戦Aだと道のりは長いけれども比較的安全。作戦Bだと近道だけれどもデコボコしている。どちらにしますか。

これもなかなか決められない。かくて3度目の法律相談とあいなったのである。しかし、紛争は動かすことだけが対応方針ではない。経過観察する、もっとざっくりいえば放置することにより事態が好転することもある。

本件は放置していたことにより、他の当事者がいろいろと動いてくれ、問題状況が見えやすく改善された。なので、最初の相談のときよりは問題は簡単にわかりやすくなっていた。

しかしやはりきょうも決めきれない。よし、もう少し事態が見えやすく改善されるまで、もうしばらく様子を見ましょう。

2018年12月25日火曜日

遺産分割調停事件(解決)


(南アルプスのむこうに富士山)

 福岡家庭裁判所に係属していた遺産分割調停事件が解決しました。このケースは,両親の遺産を子どもたち(兄姉妹)3人で分割した事件です。
 こちらは姉妹から依頼を受けました。お一人が遠方にお住まいでしたので,コミュニケーションに気をくばりました。

 父親が先に亡くなり,母親が最近亡くなった事案です。本来,父親が亡くなった際,母親が2分の1,子どもたちが各6分の1(1/2×1/3)相続していました。金融資産(預貯金)については母親が相続していたのですが,不動産については分割が未了でした。

 母親が亡くなった時点で,民法上は,子どもたち(兄姉妹)がそれぞれ3分の1ずつ分割することになります。しかし,兄が両親と同居し,実家が農業をしていたことから,そうはなりませんでした。

 本件では主に特別受益(生前贈与)が問題になりました。姉妹に対し,生前贈与があったというのです。その一部については,当方も認めましたが,残りについては争いました。

 特別受益があるとなると,死亡時の(狭い意味での)遺産に特別受益相当額を加算したものが広い意味での遺産となり,それを3等分し,特別受益をうけた当事者は,そこから特別受益分を控除したものが実際の相続分となります。(例えば,相続人ABCで死亡時の遺産5500万円,Bの受けた生前贈与が500万円の場合,6000万円が広い意味での遺産となり,その3分の1にあたる2000万円を各自が相続することとなり,ただしBは特別受益分500万円を控除し,1500万円となります。ACが2000万円,Bが1500万円で合計5500万円になります。)

 他方,兄に対する生前贈与も問題になりました。母親が金融資産を承継したことから,その生前贈与が問題になりました。当方の依頼人としてはそれをはっきりさせることが目的のひとつでした。しかしながら,同居しておらず,情報が乏しいため,なかなか困難なところがありました。

 最終的には,生前贈与を考慮して,兄が田畑を取得する,金融資産を3等分することになりました。

 法定相続制度は,家督相続制度と異なり,平等な法定相続分を定めていることから,長男とその他の兄弟間の意識のギャップを生じることが少なくありません。本件もそれがなかったわけではないでしょう。しかしながら,全員が細かいところに目をつぶり早期の解決を図ることができました。

 調停には本人が出頭されるのが望ましいのですが,本件では当方の依頼人はいちども出頭しないで解決することができました。

2018年12月21日金曜日

遺産分割事件(解決)


(信州中の湯温泉付近でサルの親子)

 遺産分割事件が解決しました。

 中小企業団体の知合いのご紹介でした。
 相談者は高齢で,ご自分で協議や交渉をすることが困難なようでしたので,その場で受任することにしました。 
 
 被相続人は今年はじめにお亡くなりになりました。
 遺産は約1億円です。

 配偶者,子はなく,ご両親も亡くなっておられました。
 このような場合,兄弟姉妹が相続人になります。

 被相続人をのぞく兄弟姉妹は5人でしたが,うち3人は亡くなっていました。
 そのうち,1人には3人の子(被相続人からみて甥姪になります。)があり,あと2人には子もいませんでした。
 まとめると,被相続人の兄弟が2人,亡くなった兄弟の子,つまり甥姪が3人でした。
 このような場合,兄弟2人がそれぞれ3分の1,甥姪が3分の1の3分の1で,それぞれ9分の1の相続分となります。

 受任と同時に相手方に,本件は弁護士が一切の交渉権限を受任したので,なにか連絡があったら弁護士を通して欲しい旨の受任通知をおくりました。

 ご依頼を受けたときは,遺産について,金融資産(預貯金,生命保険等)がどことどこ,不動産があのあたりくらいの情報しかありませんでした。そのため,金融機関への照会や,地図・図面・不動産登記簿謄本の取り寄せなどの調査から開始しました。

 こちらが弁護士に依頼したためと思われますが,相手方兄弟も弁護士に依頼されました。そして遺産の目録が送付されてきました。当職の調査結果とほぼ一致しました。

 あとは特別受益や寄与分などの話がなければ,法定相続分どおり分割することになります。この場合,金融資産ごとに分割するのは煩雑なので,相手方がすべての遺産を取得し,当方は代償金として現金を受け取ることにしました。

 遺産分割といえば家庭裁判所で協議ときめてかかる人もいますが,兄弟で仲よく話し合って解決することができれば,家庭裁判所は必要ありません。本件も話合いで解決することができました。

 ほとんど調印直前になって,当事者の1人が亡くなりました。数次相続といいます。が,考え方はおなじです。亡くなったかたの相続人らで,その件の相続はあとで話し合おうということにしていただいたので,やきもきしましたがそこは紛争化しないで解決をすることができました。

 あとすこし残務が残っていますが,年内に解決の道すじをつけることができて,ほっとしています。

2017年11月27日月曜日

生前の預金引き出しに関する相続・遺産分割事件(福岡家裁)


        (京都嵐山・渡月橋・琴きき橋跡)

 福岡家庭裁判所で,遺産分割調停でした。

 相続人は3人(うち2人が依頼人で申立人),遺産は大半が不動産・金融資産が少しです。

 遺産の分割について,共同相続人間に協議が整わないとき,また,協議をすることができないときは,その分割を裁判所に請求することができます(民法907条)。ただし,遺産分割事件はいきなり裁判(審判)を求めることはできず,まずは調停をしなければなりません(家事事件手続法257条)。これを調停前置といいます。
 
 主な争点は,①被相続人(遺産を残して亡くなった人)の生前に,同人から管理をまかされた預貯金を無断で多額にひきだしてしまったことをどう解決するのか,②現有遺産の大半が不動産であるときに,どのように分割するのかという2点です。

 ①について
 調停は,調停委員をあいだにはさんだ話合いなので,遺産の存否について争いがある部分は対象になりません。通常訴訟をおこして,そのような遺産が存在することを前提問題として解決する必要があります。しかしながら,それは双方にとってそうとうの負担となるので,一定金額を遺産にもちもどす和解的な解決が図られることが多いです。本件においても,相手方からそのような提案がなされました。

 ②について
 これについては,現物にこだわれば共有という解決もありますが,紛争を将来にもちこすだけになりかねません。
 いちばん簡単なのは,ひとりが全部を相続したことにして,その人が他の人に代償金を支払うという方法です。たとえば,不動産の価格が3,000万円であるとしてAが取得する,その代償としてAがBとCに1,000万円ずつ支払うというものです。本件でも,この方向が模索されましたが,Aが金策に失敗し,できませんでした。
 そこで,やむなく不動産を売却して現金に換え,これをわけるという方向を検討することになりました。

 遺産分割は細かい点を議論しはじめればキリがありません。親族なのですから,双方が大局的な観点から判断していければ早期の解決を図ることができます。

2017年11月19日日曜日

終活講話@筑紫野市地山地区民生委員児童委員協議会

(宝満山~仏頂山のブナ)

 やや旧聞ですが,平成29年11月9日(木)13時30分~カミ-リア2階介護研修室にて「終活についての講話」をしました。対象者は,筑紫野市筑山地区民生委員児童委員協議会のみなさんです。筑紫野市心配ごと相談員の学習会でのご縁から,永渕会長さんから声をかけていただきました。

 このような講演のご依頼を受けて話をさせていただきます。私が弁護士になったころは,遺言と相続のことを話すだけで十分でした。でもさいきんは,少子高齢化社会を背景として,社会的関係や家財の整理,お墓や葬儀の準備,成年後見制度やエンディングノートまで含めたところでの終活についてお話をすることが多くなっています。

 われわれが幸せになるためには,なにが必要か,どうすればいいのか。お金が無関係ではありませんが,お金で幸せは買えないことはいうまでもありません。民法の定める遺言や相続制度は,あくまで死後における財産に関する解決指針でしかありません。認知症による判断力の低下に対する対応や,その他のことについて別途考えなければなりません。

 ちくし法律事務所では,年に6回ほど法律セミナーを催し,エンディングノート(特製)の考え方や綴り方について話をしています。みなさんも興味があれば,お声がけください。少人数の集まりから話をさせていただきます。遠慮なくご相談ください。
                            H.U.

             


 


2016年2月8日月曜日

これも、遺言っていえる?



 大切な人が亡くなるという出来事。
 残された家族の悲しみは、なかなか癒えるものではありません。
 誰にとっても大切だった故人。
 それぞれの家族(相続人)がその故人の思いを大切にしたいと考え、「故人の思いを実現したい。」と言われる場面をよく目にします。
 
 故人の思いは、受け手によって随分と違うもの。
 本当の気持ちは、生前によく話を聞いておくこと、法的なもの・遺産に関するものは、遺言書に書いてもらうことをお勧めします。
それが、相続人どおしの争いごとを防止することにもなります。
 そこで出てくる遺言書ですが、よく「やっぱり、公正証書でないダメでしょう?」と聞かれることがあります。
 たしかに、公正証書遺言であれば、検認(家庭裁判所における手続き)が不要ですし、有効無効が争われる確率は低いです。
 ですが、自筆証書遺言も、形式的な要件さえ満たしていれば立派な遺言といえます。
 自筆証書遺言の要件は、
   ・全文を自書すること
    (名前だけ自筆で、本文がワープロなどはNG)
   ・日付の記載があること
   ・署名押印があること
です。
  
 そして、遺言は、その解釈にあたっては出来るだけ遺言者の真意を探求すべきであると言われています。
ですから、一見メモのように見えるものでも、少々分かりにくい記載があっても、なるべく遺言者の真意を読み解くように解釈していくものです。
 故人が作成された文書がある場合、「これじゃぁダメでは。。」と簡単にあきらめず、ぜひ一度相談してみてください。
 私たちは、なるべく故人の思いに沿うような解決のお手伝いがしたいと思っています。