2026年4月9日木曜日

【相続・コラム】相続放棄は認められるか -法定単純承認① 相続財産の処分(民法921条1号)

 【事例】

 被相続人Aは、平成10年4月27日に死亡した。相続人である妻B、長男C、二男Dのうち、AとはB及びCが同居していた。Aは生前、勤務先が倒産した際に保証債務の返還を求められていたことがあるが、昭和62年頃に返済したのを最後に請求はきておらず、Aの債務は完済したと考えていた。

 Aが死亡し、Bらが葬儀を行い、香典として144万円を受領した。また、A名義で預入金額300万円の郵便貯金があった。Bは、平成10年5月27日にその郵便貯金を解約したが、その解約金は302万4825円であった(香典とあわせると446万4825円)。

 Bらは、これらから、Aの葬儀費用等として273万5045円を支出したほか、同年6月に仏壇を92万7150円で購入したうえ、Bの希望で墓石を127万0500円で購入した。これらの合計が493万2695円となるところ、香典とAの郵便貯金の解約金を充て、不足分46万円余りはBらが負担した。

 その後、平成13年10月になって、信用保証協会から、被相続人A宛てに求償金合計5941万8010円の請求書が届き、A名義の多額の債務が残っていたことを知った。

 Bらは、Aの相続放棄をすることができるだろうか。


【解説】

 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(民法896条本文)。つまり、被相続人の資産(プラス)だけでなく、負債(マイナス)も承継してしまう。

 そのため、被相続人について負債超過が見込まれる場合等は、家庭裁判所で相続放棄の申述(民法938条)を行うのが通常である。

 もっとも、亡くなった直後は、死亡届、通夜・葬儀の準備・実施、その他各種手続等に追われ、被相続人の負債に気付かないまま、被相続人の預貯金を解約する等、相続財産を処分してしまうことは少なくない。

 民法は、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」(民法921条1号本文)を法定単純承認の事由とする。つまり、相続財産を処分してしまうと、相続の単純承認をしたとみなされてしまい、相続放棄ができなくなる。

 民法921条1号の「処分」とは、財産の現状・性質を変える行為をいい、法律上の行為のみならず、事実上の行為を含む(家屋の取壊し等)。

 単純承認とみなされる法律上の処分には、貯金の解約、債権の取立て、不動産・動産・その他財産権の譲渡等が含まれる。

 他方、葬儀費用については、被相続人の貯金を解約し、葬儀費用にした場合に、単純承認とみなされる処分に当たらないとした裁判例がある(裁判例①、事例)。



【発展】※専門職向け

 上記裁判例は、相続放棄申述を却下した原審を取り消した即時抗告審の判断である。「相続放棄の申述の受理は、家庭裁判所が後見的立場から行う公証的性質を有する準裁判行為であって、申述を受理したとしても、相続放棄が有効であることを確定するものではない。相続放棄等の効力は、後に訴訟において当事者の主張を尽くし証拠調べによって決せられるのが相当である。」とも判示しており、葬儀費用に充てさえすれば許されると安易に考えることには注意が必要である。


【判例・裁判例】

■最高裁判所

■高等裁判所

①大阪高決平成14年7月3日・家月55巻1号82頁(事例)

■地方裁判所


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

①潮見佳男『新注釈民法⒆ 相続⑴(第2版)』(2023、有斐閣)615~624頁

②能見善久、加藤新太郎『論点体系 判例民法11 相続(第4版)』(2024、第一法規)234~239頁

■裁判官・元裁判官

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他


富永

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