【事例】
洋品店経営者であるXは、Aに対し、各種洋品を売ったり、修繕を行ったりし、これらの売掛代金と修理代金の残額は、合計139万5008円となっていた。Aは、平成9年7月2日に死亡したところ、相続人は、夫、父、母であるYの3人であった。Aは、同月15日、家庭裁判所で相続放棄の申述を行い、同月22日に受理された。
ところが、Yは、Aの住居であったマンションから、平成9年11月頃、Aのスーツ等や毛皮のコート三着とカシミア製のコート三着等を持ち帰った。これらの多くは新品同様のものであった。
そこで、Xは、Yの行為は背信行為として法定単純承認の事由にあたると主張して、Yに対し、Aに対する残代金債権のうち、Yの相続分6分の1である23万2501円を請求した。Yの相続放棄は認められないのだろうか。
【解説】
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(民法896条本文)。つまり、被相続人の資産(プラス)だけでなく、負債(マイナス)も承継してしまう。
そのため、被相続人について負債超過が見込まれる場合等は、家庭裁判所で相続放棄の申述(民法938条)を行うのが通常である。
もっとも、相続放棄申述の受理審判に当たっては、法定単純承認事由の有無等に関する実質的要件については、その不充足が極めて明らかな場合に限り審理の対象とすべきと考えられている(裁判例①、②)。
つまり、相続放棄の申述が受理されたからといって、相続放棄が有効であるとは、必ずしもいえない。
相続放棄の申述が受理された後であっても、①隠匿、②私に消費すること、③悪意で財産目録中に記載しないこと等の背信行為があれば、相続放棄の効力は認めらない。
「隠匿」とは、相続債権者から相続財産の所在を不明にすることである。相続人間で遺品を分配する形見分けは含まれないが、所在不明にした相続財産の範囲や量、財産的価値等を考慮し、判断されている。
【事例】では、Yが持ち帰った遺品の中には新品同様の洋服や毛皮が含まれていたこと、持ち帰った洋服は遺品のほとんどすべてであり相当な量があったこと等を考慮して、「隠匿」にあたると判断された結果、Yの相続放棄は有効と認められず、Xの請求が認められた。
【発展】※専門職向け
【判例・裁判例】
■最高裁判所
■高等裁判所
①仙台高決平成元年9月1日・家月42巻1号108頁
②福岡高決平成2年9月25日・判タ742号159頁
■地方裁判所
③東京地判平成12年3月21日・家月53巻9号45頁(事例)
【参考文献】
■調査官解説
■条解・コンメンタール等
①潮見佳男『新注釈民法⒆ 相続⑴(第2版』(2023、有斐閣)627~633頁
②能見善久、加藤新太郎『論点体系 判例民法11 相続(第4版)』(2024、第一法規)237~239頁、272~274頁
■裁判官・元裁判官
■立案担当者見解
■学説
■弁護士・その他
富永
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