2016年1月14日木曜日
相続人の不存在と特別縁故者に対する相続財産の分与
現在,福岡家庭裁判所から依頼を受け,ある方の成年後見人になっています。
その方には相続人がいません。
民法上,相続は,遺言を書かなければ,法定相続ということになります。
法定相続の場合,相続人の定めがあり,配偶者,子,その代襲相続人(孫など),子がないときは両親,両親が亡くなっているときは兄弟姉妹,その代襲相続人(甥,姪まで)となっています(民法886条~890条)。
そのため,妻側のそれ以外の親族,夫側(義理)の両親,兄弟姉妹,その代襲相続人(甥,姪)などの親族がおられたとしても,その方々は相続人ではないことになります。
そのようなときは,相続人が不存在であるということになります。その場合,家庭裁判所により相続財産管理人が選任されます(民法952条)。
相続財産管理人は,相続債権者や受遺者に支払いを行い,相続人を捜索します。
これにより,相続人が見つからず,相続財産が残ったときは,国庫に帰属することになります(民法959条)。
これは先ほどのご親族や被相続人に縁故のあった方々からすると,まことに残念な結論です。
そこで,例外が用意されています。それは次のような場合・方々です。
①被相続人と生計を同じくしていた者,②被相続人の療養看護に努めた者,③その他被相続人と特別の縁故があった者。
このような場合・方々には,その請求により,家庭裁判所は,相続財産の全部又は一部を与えることができます(民法968条の3)。
法律の条文に枝番がついているときは,あとから法改正がおこなわれたことを示しています。
本条文も,枝番がついているので,あとから法改正がおこなわれたものです。
東京家裁審判,平成24・4・20(判例時報2275・106)は,これを認めた事例判決です。
生前や死後の縁故の程度に応じて,被相続人の相続財産総額1億4000万円の預金のうち,被相続人の義理の姪に500万円,義理の従姉妹に2500万円をそれぞれ分与しています。
法定相続(人)制度の硬直性を事案に応じて具体的妥当性を図った判断といえるでしょう。
遺言の作成により,生前に問題に解決することが望ましいことはいうまでもありません。
2015年12月14日月曜日
法の不知はこれを許さず(顧問企業研修③)
「法の不知はこれを許さず」
あるいは,「法の不知は害する」。
という法格言があります。
主に刑法の分野で議論されます。
「法律を知らなかったとしても,そのことによって,
罪を犯す意思がなかったとすることはできない。」(刑法38条3項本文)
速度違反で捕まったときに,「この道路が時速○○キロメートル規制
ということは知らんかったので・・・」という弁解は許されないということです。
あまり論じられませんが,この問題は刑事法の分野だけでなく
民事法,行政法の分野でも問題になりえます。
膨大な六法全書,弁護士や検察官,裁判官でさえ
おそらく全部知っているということはないでしょう。
お客さんから,すごいですねぇ~と持ちあげられますが
実はぜんぶは知りません。
とくに近時,社会が複雑になり,かつ,変動速度を速めているので
法律も日々制定・改正されていきます。
法律だけでなく,下位の政令・省令や通達まで含めると
とうてい手に負えるものではありません。
社会生活を律するルールはこれら制定法だけでなく
判例法もあります。
裁判所も日々判決を言い渡し
それらが積み重なって判例法を形成しています。
英米法などは
判例法を基本としているぐらいです。
われわれが日ごろ接する例で多いのは
相続・遺産分割や時効に関するルールです。
きょうは相続に関するルールについて紹介し
時効などについてはまたの機会に。
相続に関して,民法の相続編は
2とおりの制度を定めています。
ひとつは法定相続制度
ひとつは遺言制度です。
洋服でいえば,前者はレディメイド
後者はオーダーメイド
食事でいえば,前者は定食(シェフのお薦め)
後者はアラカルトです。
相続発生のきっかけとなる亡くなった人のことを
被相続人といいます。
相続のしかたについて,被相続人があれこれと
指示をするのが,遺言制度です。
それに対して,民法がこのように分けなさいと
指示をするのが,法定相続制度です。
遺言があればこれが優先し
なければ法定相続によることになります。
ただし,遺言があるにせよ,ないにせよ
相続人どうしで,どのように分けるかは決められます。
相続人どうしの仲が悪く,話がつかないのであれば
遺言や法定相続がその解決指針となります。
相続人どうしで話がつかないときには
家裁の裁判官が分け方を決めることになります(審判)。
その際に準拠する解決指針が
遺言や法定相続になります。
配偶者がいて,子ども2人,家庭円満であれば
じぶんたちで話し合って決めればよいです。
法定相続では,夫が亡くなったばあい
妻2分の1,子どもたち4分の1ずつです。
ですが,遺族で話し合い
母親がぜんぶ相続することにすることも多いです。
このような家族であれば
遺言をつくらなければならない必要性も低いです。
逆に,遺言をつくったほうがよい場合があります。
でも往々にしてあまり作られていません。
法定相続制度は,100件の相続が発生したときに
だいたい70~80件くらいはうまくいくように作られています。
しかし,残りの20~30件については
どうかなという感じになります。
たとえば,子の1人が両親と同居して
親の介護を長らくしてきたような場合です。
3人兄弟であれば
他の兄弟と平等に3分の1となります。
介護をしてきたのが長男の嫁であれば
まったく相続分がありません。
寄与分や特別受益という調整規定があるものの
うまく機能していないと思います。
寄与分は,親の商売を長男が手伝って遺産の形成に寄与したような場合
多めに相続できるという制度です。
家裁での遺産分割調停や審判も裁判所でおこなうことなので
争いのある事実を主張するときは証拠の裏付けが必要になります。
親の介護を長年おこなってきたことはともかく
それによって遺産が増加,もしくは減少しなかったことの証明は困難です。
特別受益は,逆に,生前に贈与を受け取っている場合
遺産の先渡しとして勘定されるという制度です。
農家で長男が農業を手伝っているようなとき
田畑を生前贈与している場合があります。
親の意思としては長男に多く相続させるつもりだったと思われますが
特別受益制度によると,遺産をもらえなくなったりします。
このように法定相続をそのまま適用したのでは
不公平感が残る,そのようなケースでは遺言をつくる必要があります。
しかし,被相続人が亡くなってから相談にきたのでは遅すぎる
いまさら,どうもなりません。
その際,ついつい「生前に遺言書をつくってもらっておけば
よかったですねぇ」と言わずもがなのことを言ってしまいます。
その場合,よくある反応が
「そんなことになるとは知りませんでした。」です。
むろん,遺言制度じたいを知らないことはないでしょうが
親の介護を長らくしても報われないことを知らなかったということでしょう。
そんなときに頭をよぎるのが
「法の不知はこれを許さず」,「法の不知は害する」です。
日々変化する膨大な法令をぜんぶ知っていることは不可能でしょうが
相続など基本的なところはセミナーなどで押さえておいたほうがいいでしょうね。
2013年2月28日木曜日
遺産分割のルール変更?
きのうは朝刊を読んでいて
血圧がどーんとさがってしまった。
1面の中央に(西日本新聞)
こんな見出しの記事がでていたからだ。
「婚外子の相続は半分」規定
違憲判断の公算大,最高裁。
相続のとき,遺言がなければ
法律が定めた割合で遺産を分割することになる。
これを
法定相続分という。
子が2人いる夫婦で,夫が亡くなれば
妻が2分の1,子らが4分の1ずつとなる。
このときさらに夫と非婚の女性との間に子がいれば
婚外子と呼ばれる。
いわゆる嫡出でない子(非嫡出子)
である。
これに対し,結婚した夫婦の子は
嫡出子である。
民法上,非嫡出子の相続分は
嫡出子の半分とされている。
結婚による家族をまもる
趣旨とされる。
だが,生まれた子に罪はない
それなのに差別扱いなのだから問題だ。
これまで,なんども平等原則違反=違憲だとして
チャレンジされてきたが,ことごとく退けられてきた。
それが今回,小法廷の審理から大法廷へ回付
されるのだから,見直される公算が大きいというわけだ。
さて,この記事を読んでなぜ
血圧がどーんとさがったのか。
ちょうどいま似たような事件をかかえ
解決まぢかになっていたからだ。
相続人が20人とおおく,苦労して
ひとりひとりの了解を得てきた。
そのケースでもおおくの人の相続分が
他の人の相続分の2分の1なのだ。
ほぼ全員の了解を得て
あとは家庭裁判所で調停するだけ。
そんなときに,相続のルールが
変更されそうなのだから,あわてた。
しかし,ちょっと考えて
ほっとした。
似た事案だけれども
違う事案だから。
本件は夫婦に子がなく,夫の両親も亡くなられ
兄弟姉妹が相続人となっているケース。
そのうち2人の兄弟は夫と母もおなじだけれども
他の兄弟は母がちがう。
いわゆる腹違いの兄弟
と呼ばれる関係である。
この場合,母を同じくする兄弟に対し
母を同じくしない兄弟の相続分はやはり2分の1。
本件はこちらのほうの事案であった。
なので,今回の判例の見直しとは事案がちがう。
オリンピックをはじめスポーツの世界でも
ルールの変更が試合の帰趨におおきな影響をおよぼす。
法律の世界も
おなじだ。
まして試合途中で
ルールが変わってしまうと,あわてる。
たとえいい方向に
変わったとしても。
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