【事例1】シンガー・ソーイング・メシーン・カンパニー事件
株式会社Yに雇用されたXは、退職に際し、「Xは、株式会社Yに対し、いかなる性質の請求権をも有しないことを確認する」旨の記載のある書面に署名して株式会社Yに差し入れた。Xは退職金の請求をすることはできないのだろうか。
【事例2】更生会社三井埠頭事件
株式会社Yは、管理職従業員Xらの賃金を20%減額するとの通知をした。Xらは、賃金減額を甘んじて受け入れるしかないのだろうか。
【解説】
労働契約関係は、労働者と使用者が対等な立場で合意によって成立させ、内容を定めるべきものである(労契法1条、同3条1項)。そのため、契約内容(労働条件)の変更も、それら当事者の合意によるべきことが原則である。
では、合意(ないし労働者の意思表示)があれば、いかなる労働条件も変更可能か。
例えば、経営危機に際し、役員や管理職等が報酬や賃金の一部を返上する措置がとられることがある(裁判例④)。経営危機に瀕した企業が個々の労働者の同意を取り付けて賃金減額を行う場合には、同意は労働者の自由意思に基づく明確なものであることを必要とし、とくに黙示の合意の場合にはその成立や有効性は容易には認められない(裁判例③⑤)。
【事例1】のように、労働者が何らかの理由により賃金債権を放棄(賃金債務の免除、民法519条)する旨の意思表示をした場合でも、労基法24条1項に定める賃金全額払の原則の趣旨から、その意思表示が有効というためには、それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであることが明確でなければならないとするのが判例(判例①②)である。
【発展】※専門職向け
【判例・裁判例】
■最高裁判所
①最小判昭和48年1月19日・民集27巻1号27頁(事例1)
②最小判平成15年12月18日・労判866号14頁(北海道国際空港事件)
■高等裁判所
③東京高判平成12年12月27日・労判809号82頁(事例2)
■地方裁判所
④大阪地判平成9年5月28日・労経速1641号22頁(ティーエム事件)
⑤東京地判平成20年1月25日・労判961号56頁(日本構造技術事件)
【参考文献】
■調査官解説
■条解・コンメンタール等
■裁判官・元裁判官
■立案担当者見解
■学説
①菅野和夫『労働法(第12版)』(2019、弘文堂)455~456頁
■弁護士・その他
富永




