本件準消費貸借契約書については、本人の署名があり、かつ、実印が押捺されており、それに印鑑証明書が添付されている。民事訴訟において、この証拠は鉄板である。普通、これに穴を空けることはできない。
ただし消費貸借は要物契約といわれており、契約だけでなく、現金の交付が必要である。B社は、現金を手渡したという。令和3年11月30日に350万円、令和4年3月25日に425万円、同年7月8日に105万円、同年9月30日に510万円。
いまの時代にこのような高額現金を送金しないで手渡しということ自体に疑義がある。しかしB社は、各交付の際にAが作成し手渡したという領収書4枚を証拠として提出していた。
領収書の署名はAの署名と酷似していた。Aは自分が書いたものではないと主張したが、裁判官は酷似していると判断した。印影も酷似している。
そのうえ、B社の預金通帳の履歴である。令和3年11月30日ころに350万円、令和4年3月25日ころに425万円、同年7月8日ころに105万円、同年9月30日ころに510万円が引き出されている。Bはこれら引き出された現金をAに交付したと主張した。
裁判所はこれらを踏まえ、Aの言い分をまったく信用しない態度であった。どうしたらいいだろう?
実は、これらガッチリと組み立てられた証拠を崩すために、これといって決め手があるわけではない。筆跡鑑定や、領収書にAの指紋が残っていないはずだなどとAは主張した。しかし、これらの手法は刑事事件であればともかく、民事事件では一般的ではない。
しかたがない。問題点を1つずつ丹念に突いていくしかない。
第1の問題点は、AがB社のグループ会社であるB2社の新入社員であったことである。C社に勤務していたAはB社からヘッドハンティングを受け、入社を決めたところB2社に入社するよう指示された。
入社は令和3年9月1日のことである。最初の借入があったとされるのが11月30日であるから、わずか3か月まえのことである。
入社3か月の新入社員に350万円、ひいては合計1390万円ものお金を貸す会社は一般に存在しない。B社が金融機関であればともかく、そうではない。
この点に関するB社の釈明は、AがC社を辞めて会社を設立し事業をしたいということだったので、その事業資金を貸与したというものである。A社が設立され、同社がC社関連の仕事などをまわしてくれれば、B社としてもうまみがあると考えたという。
実際、令和3年12月24日、Aを社長とするA社が設立されていた。そのため、令和3年11月30日の350万円はA社の設立資金・事業資金として貸与したものであるというB社の主張には相当の合理性が存在した。さて、どうしよう?
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