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2023年12月11日月曜日

機械の利用料を請求されたある事件(勝訴的和解)

 

 山行記・旅行記ばかり書いているが、事件もちゃんと解決している。きょうは機械利用料を請求されたある事件について報告しよう。

ある組合員、Aさんとしよう。Aさんはある機械利用組合から機械の利用料を支払えと訴えられた。その額は約800万円である。当職はAさんから依頼を受けた。

請求にかかる機械についてAさんは一切利用していない。したがって、そのような利用料は1円も支払う義務がないと争った(これだけではなんのことやら分からない。組合は全組合員に利用義務があることを前提としていた。)。

むこうには弁護士が2名ついていて、弁護士の数だけでいえば、劣勢である。

機械利用組合というのは、農業の集団化・合理化のため行政主導で設立されたものである。農業に使う機械を個人で購入・所有するのはムダも多いので、組合で購入・所有し、みんなで利用しようという目的である。

組合の請求根拠は当初、組合規約に基づくとのことだった。しかし、規約を熟読するも、どこにもそのようなことは書いていない。

そのように指摘すると、今度は組合設立時にそのような黙示の合意がなされたと請求の根拠を変更した。

その証拠の存否を尋ねると、それを明記した規約も議事録も契約書も存在しないという。情況証拠の積み重ねで当該合意の存在を推認できるという。

組合員に対し800万円もの大金を請求する裁判を提起しながら、その根拠は情況証拠の組合せであるという。むちゃだ。

そのように反論するも、組合側もなかなかあきらめない。結局、証人尋問がおこなわれた。いまどき珍しい。本格的な証人尋問はコロナ後、初ではなかろうか。

尋問終了後、裁判長から心証開示があった。当方の勝ちだという。組合側はそれでもあきらめなかった。往生際が悪い。

最終準備書面を提出することになった。心証開示の結果からすれば手を抜いてもよかったが、心血を注いで説得力のある自信作を完成させた。21頁の大作だ。

双方、最終準備書面を提出し、結審。判決日の予告がなされた。

・・・それから数日経って、山を歩いていると、組合側の弁護士から電話があった。和解したいという。最終準備書面の説得力のなせる技であろうか。その旨Aさんに連絡をしたところ、和解するとの了承を得た。

和解内容は、もちろんこちら側の全面勝訴である。めでたし、めでたし。

2023年7月3日月曜日

ある共有物分割請求事件(和解)

 


 ある共有物分割請求事件が和解により解決した。

ある建物を兄弟が相続により、2分の1の持分ずつ共有取得した。そこで兄のほうが相続前から事業をしていた。弟のほうは無料で共有持分を譲ると言っていたが、相続のほうがもめたので前言を翻し代価として1600万円を寄こせと言い出した。

兄から依頼を受けて、共有物分割請求裁判を提起した。

各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる(民法256条1項本文)。共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる(258条1項)。

この場合、分割のしかたは3通り(同条2項3項)。
①共有物の現物を分割する方法。
②一方の共有者に債務を負担させて、他方の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法。
③強制競売、競売代金の分配。

たとえば、共有物が宅地100坪とかであれば、50坪ずつ分筆して分けることができる。現物分割である。本件では建物だから、現物分割はできない。

競売は建物を強制的に第三者に売却して、代金を半分ずつ分ける方法である。本件ではそこで兄が事業をしているので、競売にもできない。

そこで残るのが②の代償分割の方法である。兄が弟の共有持分を取得する代わりに、代金を支払うというもの。弟の持分を買い取るようなものだ。

問題はその代金の額である。こちら(兄)は市町村が行っている固定資産税評価にしたがい80万円を主張し、相手方(弟)は1600万円を主張した。

弟は過去10年分の建物使用料も請求してきた。兄は使用貸借によるものであるから、使用料を支払う必要はないと反論した。

それならということで、こちらは建物の修繕代をこれまで3度負担しているので、それを負担せよと主張した。相手方は不要な工事であり、負担する必要はない。むしろ建物の構造を弱くしたなどと反論した。

簡単に終了するかと思いきや、10回ほど弁論や和解協議を重ねることなった。最後は、裁判所が書面による和解案を提示した。

書面による和解案は判決ではないけれども、ほぼ判決のようなものである。飲むしかない。蹴ったとしても、おなじ内容の判決がでるだけである。

裁判所の和解案は、①使用貸借の成立を認め、②修繕費の請求を否定し、③代償金250万円を支払うというもの。

こちらが考えていた額より高額だったが当方は受諾した。相手方は受諾を相当しぶった。いちばんのひっかかりは使用貸借の成立を認めた点だ。

その根拠として、被相続人に対する賃料の支払いが認められないかぎりというくだりがあった。そのため、過去にさかのぼって、賃料の支払いのないことの確認を求めてきた。

ふつうは、ないことの証明は「鬼の証明」といわれる。殺人事件で、殺したことの証明はできても、殺していないことの証明はできない(不在証明=アリバイの立証はできる。)。

よく捜査官が被疑者に対し犯人でないなら殺していないことを証明しろなどとやっているが、不可能を強いるものである。そのために立証責任が存在する。殺人を行ったことは捜査側が立証しなければならない。

本件では、兄の事業の確定申告書の損益計算書を提出することにした。損益計算書には賃料の項目があるから、賃料を支払っていれば、そこに記載があるはずだ。しかし、記載はなかった。

これによりようやく和解解決することができた。和解にも勝ち負けはある。こちらは80万円→250万円であるから3倍。あちらは1600万円→250万円であるから6分の1以下である。当方の勝訴的和解である。

2022年10月12日水曜日

ある遺言無効確認請求訴訟(勝訴)


  ある遺言無効確認請求訴訟について、勝訴判決を得た。高齢化社会のなか、遺言の有効/無効を争う事件も増えた。そうしたなか、相手から遺言の無効を訴えられた。こちらは遺言の有効を主張して防戦した。

相手方が無効を主張する理由は、本件遺言作成当時、遺言者に遺言能力が存在しなかったというにある。

当時遺言者が認知症に罹患していたことは争いない。しかし、認知症に罹患イコール遺言能力の喪失ではない。

民法は遺言能力について、15歳に達した者は、遺言をすることができると定めている(961条)。つまり、成人でなくても、中学3年生程度の能力があれば、遺言能力があるということである。

また、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、・・後見開始の審判をすることできる(7条)。精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、・・保佐開始の審判をすることができる(11条)と定めている。さらに、成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならないともある(973条1項)。つまり、事理を弁識する能力≒遺言能力であり、事理を弁識する能力が著しく不十分であっても、遺言能力はただちには否定されないということである。

認知症にも程度がある。長谷川テストを知っているだろうか。今日は何日ですか、あなたの誕生日はいつですか、さっきこの紙の下に隠したのはなにですか・・などと30問質問する。正解が20点を切ると軽度認知症、12点程度になると重度認知症である(他に、画像診断を行い、脳の萎縮を確認したりもする。)。

認知症も重度になると遺言作成能力がないとされる。むかしは、遺言書の無効が争われても、医学的な理由で無効になることは少なかったのではなかろうか。

最近は増えていると思う。介護保険の導入により、要介護度を判定するようになったからである。その際、主治医意見書が作成されている。要介護度は裏を返せば自立/自立できないの程度を判定するものである。自立できない理由には、身体障害による場合と精神障害による場合がある。精神障害により自立できないとされていれば、遺言書作成能力も否定されることになる。

本件事案の中身は詳しくは書けないが、上記のような事情、証拠により攻防が行われた。その結果、遺言能力の存在が認められたわけである。よかった、よかった。

2022年2月20日日曜日

ある家の明渡し請求事件


  ひさしぶりに家の明渡し請求事件をやっている。家主さん側である。家主さんがあるマンションを賃貸したが、借主さんが賃料を支払わない。そのため契約を解除して出て行ってもらいたいという。

家の明渡しとなると、単なる金銭請求事件より生々しい。まず、明渡しを命ずる判決を取得する。つぎに、執行官にお願いしてこれを強制執行してもらう。

強制執行はたいへんだ。借主さんの引越を強制することになるから。家財を運び出して(引越)、倉庫に保管しなければならない。2度に分けて行われる。1度目は催告。2度目は実際の引越だ。

それでも昔はシンプルだった。しかしいまは高齢化社会の実情を反映していくえにもややこしい。まず、依頼者も高齢であり、依頼中に入院などなさっている。

相手方も高齢で、さらに高齢の母親が同居していたりする。高齢者二人では、引越するにもたいへんである。引越先を探そうにも新たな貸し手や連帯保証人がいなかったりする。

本事件ではないのだけれども、途中で相続が発生したりすると、相続人らが相続放棄したりする。そうなると、相続財産管理人を選任する必要がある。さらに、相続人のなかには後見人の選任が必要だったり、不在者財産管理人の選任が必要な人がいたりもする。いずれの手続も相当の費用と手間と時間がかかる。

テレビCMを見ていると、「わたしも大家さん」などとやっている。不動産投資の勧めなのであるが、リスクの説明はない。しかしかくて、大家さんもなかなかたいへんである。

2018年10月24日水曜日

2つの離婚事件


          (建仁寺,双龍図)

 2つの離婚事件について,ひとつは判決があり,ひとつは和解が成立しました。

 いちどは好きで一緒になった男女だけれど,うまくいかなくなると愛情は容易に憎悪に転化してしまいます。

 「法律は家庭に入らず」の原則から,離婚事件はいきなり裁判をすることができません。まず家庭裁判所で調停という話合いをする必要があります。

 調停で話がつかないときにはじめて裁判になります。裁判になっても,途中なんどか和解という話合いによる解決の試みがなされます。それでも解決できないときに判決の言い渡しがなされます。

 このたび,一件については和解が成立し,一件は判決の言い渡しとなりました。どちらも夫側で関与することなりました(別に夫側専門ではなく,たまたま相談・依頼されたのが男性側だっただけです。もちろん女性側で離婚事件をすることもたくさんあります)。

 一件は,新婚数か月の夫婦で,結婚式の準備をめぐって夫婦げんかが絶えず破局しました。離婚原因は夫側にあるとして慰謝料請求にこだわり,調停,裁判にいたったものです。双方の言い分と証拠をだしつくしたところで,裁判所が和解案を打診しました。慰謝料は認めず,婚姻費用の分担について,妻の離婚後の生活費を負担するとしてやや増額するという内容です。この理由なら問題ないので,当方も和解に応じることにしました。

 もう一件は,夫にDVがあったかどうか,財産分与の対象となる財産にはどのようなものがあるかについて厳しく争われました。調停段階から何度か話合いによる解決が模索されましたが,双方の見解のひらきが大きく妥結にはいたりませんでした。今般,判決がなされ,概ね当方の言い分が認められました。しかし,妻側は納得せず,控訴となりました。さらに高等裁判所で裁判がつづくことになります。

 双方が納得できる妥協点が早期に見つかることを願ってやみません。

2016年1月14日木曜日

従業員が競合会社を設立できるか?



【賃貸管理等を行う不動産業者の従業員が在職中競合会社を設立し,従来の顧客を奪ったことにつき不法行為が肯定され,管理委託費用相当額の逸失利益の損害が認められた事例】

 判例時報平成28年1月11日号に掲載された東京地判平成27・3・30の事例判決です。

 X会社社長が信頼していた右腕社員Yが他の社員と顧客をごっそり引き連れて隣で商売をはじめたときに,X会社はYに対し差止めや損害賠償請求ができるのか?

 中小企業の社長によくある誤解ですが,なんとかできると考えられている方がおおいと思います。しかし,原則として差し止めや損害賠償請求はできません。理由は,自由競争の範囲内だから。

 もちろん例外はあります。自由競争の範囲を逸脱した場合,損害賠償請求ができます。
 本判決は,この例外を認めた事例判決です。

 本件では,Yが在職中から開業準備行為を行っており,顧客に対する営業活動を行っていたものと推認し,引継物件のパソコン内のデータを消去するなどしたことから,違法な態様でXの営業活動を妨害し,顧客に対しても虚偽の説明をして勧誘したものであり,社会通念上自由競争の範囲を逸脱したものであるとしました。

 逆に言えば,これだけの違法な態様,虚偽の説明を立証しないかぎり,自由競争の範囲内に収まってしまい,X会社側の敗訴となってしまうわけです。

 それでは,X会社としては,なんの防御もできないのか?
 この点,競業避止契約を従業員と結んでおくことで,一定防御することができます。

 ですが,これも万能ではなく,従業員の独立・競業を100%シャット・アウトすることはできないことになっています。

 そこから先は,従業員が反旗をひるがえさないよう,どこまで良好な労使関係を結んでいけるかという経営者としての力量が試される領域となります。

 ご参考まで。

2013年9月17日火曜日

なぜ?


先日,
担当していた刑事事件の
裁判と判決がありました。

車検を通さず,
自賠責保険に加入せず,
無免許で自動車を運転したという罪です。


道路運送車両法,
自動車損害賠償保障法,
道路交通法 …と,

漢字が並びまくった法律の違反になります。



ところで,

「なぜ無車検の車を運転してはいけないのでしょうか」
「なぜ無自賠責の車を…」
「なぜ無免許で車を…」


「法律でダメといわれているから」

それも一つの答えかもしれませんが,
それでは不十分です。


どうして,法律が禁止しているのか。


そこをしっかりと考え,
納得していくことが大切です。



車検を通していないということは,
整備がしっかりされていないということ。

自賠責に加入していないということは,
事故を起こした時に保障できないということ。

免許を持っていないということは,
安全に運転できるという保証がないということ。



いずれも,
自動車が

「いつか人を殺すかもしれない」

凶器になりうるんだということを
しっかり考え直さないといけませんね。



私が担当した方は,
今回,罰金と懲役の執行猶予になりました。

しっかりと見つめ直して,
二度とこのようなことがないようにと
願うばかりです。


2013年7月17日水曜日

三銃士…とは違うか。


3人の裁判官が並んで
法廷で座っている様子をよく目にしますね。


真中が「裁判長」,
裁判長から見て右側が「右陪席裁判官」
裁判長から見て左側が「左陪席裁判官」です。


傍聴席からみると,
「右陪席」と「左陪席」は逆になりますね。


「左陪席」が一番の若手,
「右陪席」が中堅裁判官,
「裁判長」がベテラン裁判官…と
思っていただければ,
ほぼ正解でしょう。



3人が合議をするような裁判は,
非常に難しいものであるケースが多いのです。

そこで,
判決を書く際には,
左陪席が頑張って判決文を書いてみて,

それをたたき台にし,
3人の裁判官が合議をする…という
流れが一般的です。



3人がお互いに意見を出し合って
判決が出来上がっていくのですね。


裁判官はそれぞれ独立している…
とはいえ,
大変なお仕事です。

2012年4月16日月曜日

脳梗塞の見逃し事件 by.山歩きの好きな福岡の弁護士



 去る3月27日、福岡地方裁判所において,医療事件で
 原告の請求を一部認める判決が出されました(4月11日確定)。

 事案は,福岡市内の被告病院が,同市の70代の女性(原告)の
 脳梗塞の診断・治療を怠ったもの。

 原告は、飲食店での支払いの際、何度も硬貨を落とすなどしたため
 店員が脳梗塞を疑い119番通報し、被告病院に救急搬送されました。

 当直医(消化器科)及び翌日診察した主治医(循環器科)が、TIA
 (一過性脳虚血発作。脳梗塞の前駆症状であることが多い)を誤診。

 TIAではないとし、治療(専門医への転送)をしなかったところ
 2週間後に脳梗塞を発症、右半身麻痺等の障害を後遺することに。

 被告病院の診断義務違反等を理由に
 8000万円の損害賠償を請求をしました。

 被告が,非専門医は,TIAを診断すべき義務はないなどと主張したものの
 裁判所は,被告病院の過失を認めました。

 TIAの診断方法等は一般的な医学文献に記載されており
 その程度の知識は非専門医であっても認識しておくべきとの判断です。

 被告医師らがTIAに関する誤った知識に基づき適切な問診を行わず
 TIAについて否定的な診断をしたことは不適切であったとしました。

 しかしながら裁判所は,
 相当因果関係について否定しました。

 ①TIAを疑って入院させ、心電図がなされたとしても
 心房細動が発見されたとは限らない。

 ②抗凝固療法が開始されていたとしても
 100%脳梗塞の発症を防ぐことはできない。

 それゆえ,被告病院医師の義務違反がなかったとしても
 本件脳梗塞を防止し得た高度の蓋然性は認められないというのです。

 ただし,被告医師がTIAを診断等していれば、後遺障害が生じなかった
 相当程度の可能性はあるとして、慰謝料等440万円を認めました。

 本判決は、非専門医であっても、一般的な医学文献に記載のある事項
 については知識を得ておくべきであるとしました。

 専門分野以外についての診断義務違反の判断方法の基準を示した点で
 大きな意義を有しています。

 脳梗塞を含む脳卒中という疾患は、日本人の死因でも上位を占め
 多くの人がなる可能性がある病気です。

 その重大さを考えれば、非専門医であっても
 適切な診断・治療を行うことが期待されます。
 
 本判決は,損害評価が低きに失するものの,この期待に応えるもので
 市民感覚に合致するものではないでしょうか。

          ちくし法律事務所 弁護士 浦田秀徳

2011年12月1日木曜日

セックスレス? by.離婚事件にも取り組む福岡の弁護士



 ヤフーニュースの【こぼれ話】に
 フランスの離婚事情に関する記事がでていました。

 「セックスしなかったと夫に妻への賠償金支払いを命令」
 という記事。

 時事通信 11月30日(水)14時36分配信によるもの。
 もとはパリ29日AFP時事。

 数年間、妻とセックスをしなかった夫に対して
 結婚生活の義務を果たさず、妻の欲求不満に対して賠償責任がある

 として、1万ユーロ(約104万円)の支払いを命じた。
 「結婚した2人の間の性的な交渉は互いの愛情の表現であり

 かつ結婚によって生じる義務の一部であるという意味において
 妻の期待は正当である」。

 妻にはセックスのない結婚生活で被った苦しみ
 に対する賠償を受ける権利があると認めています。

 この夫婦はともに51歳。1986年に結婚して子供を2人もうけ
 2009年1月に離婚。

 夫の側の反論は、健康問題と長時間の労働によって
 セックスをする機会を奪われたというもの。

 これには、妻と親密な関係を持つことを完全に不可能にするほどの
 健康上の問題が証明されていないとして退けられています。

 なるほどね~やっぱフランスやね~。
 などと思ってはいけません。

 日本にもあります、こんな判決。たとえば
 京都地裁の平成2年6月14日判決(判時1372・123)。

 昭和62年6月に見合いをして、昭和63年4月に結婚。
 結婚当時、妻は35歳、夫は44歳で、いずれも初婚。

 夫は、新婚旅行中も、同居中も妻に指1本触れず
 性交渉を求めたこともなかった。夫婦の会話もなし。

 これに対し、裁判所は、婚姻生活が短期間で解消したのはもっぱら夫のみに
 原因があるとして500万円の慰謝料の支払いを命じています。

 セックスレスの「真の理由については
 「判然としない」とされています。

 なお、この慰謝料はわれわれの感覚としてやや高額ですが
 家具等の購入費が約450万円がムダになったことなどが考慮されたよう。

 時事通信やヤフーニュースがわざわざフランスの離婚事情を報じたのは
 「日本とちがう。フランスのほうが進んでいる」とおもったからでしょう。

 でも日本の裁判所のほうがずっと進んでいます。
 (そんなとこ自慢してどうする?って感じですが)

 民法には、「配偶者に不貞な行為があったとき」は裁判上の離婚原因
 となると明記されています(770条)。

 でもセックスレスが離婚原因になる、あるいは、不法行為になるとは
 明記されていません。

 でも、ま、「常識」の範囲内のことなんでしょう。あるいは、「夫婦は
 同居し互いに協力し扶助しなければならない」(752条)の一部か?

 わたくしも2,3度手がけたことがあります。
 原因はいろいろですが

 実は夫がゲイで
 そのカモフラージュのため異性と婚姻という悲劇もありました。

 草食系男子が増殖するなか、この種の紛争が増えていくのでしょうか
 それか、先の「常識」のほうが変容して

 「セックスレス?それがなにか?」
 ーなんてなったりして?

                  ちくし法律事務所 弁護士 浦田秀徳

2011年4月25日月曜日

 労災事故&交通事故&医療事故


 労災事故&交通事故&医療事故?という3重困難な事件が解決しました。
 作業中に交通事故に遭い、診断・治療が遅れ、障害が後遺した事案。

 労災保険は所得の一部と慰謝料等を補償するものではないため
 不足分の損害賠償を求めて雇主、車の所有者らを訴えたものです。

 損害保険と生命保険のちがいをご存じでしょうか?
 生命保険は加入している口数だけ保険金がおります。

 これに対し、損害保険は複数口加入していても1口しか出ません。
 それにより損害が補填されるからです。

 医療裁判のハードルのほうが高いこともあり
 労災・交通事故裁判に専念することにしました。
 (2兎を追うものは1兎も得ず、なので)

 福岡地裁で勝訴判決を獲得し、被告らが控訴したものの
 福岡高裁で和解が成立しました。

 一審では、労災事故・交通事故の発生そのものが争点に
 労災事故の性格上、目撃できる者は被告企業に集中し多勢に無勢。

 さらに、もととなった症状の診断がおくれたために
 障害をひきおこした事故の存在そのものも不安定に。

 (むかし短期間に3度交通事故に遭ったために、因果関係の証明が
 難しくなった事件がありました。複数の不幸に遭うとさらなる不幸が
 まっているというのが訴訟制度の難しいところ)

 それでも長期間にわたる治療実績があることや
 労災による障害認定を受けていたことから、一審勝訴。

 高等裁判所では、労災事故・交通事故の存在を前提に  
 主に、事故と障害との間の因果関係が争われました。

 障害の発生原因が他にあるという、いわゆる他原因主張です。
 他原因が医学的な論点であったことから、医学論争となりました。

 損保会社側からは、医師の鑑定書が複数提出されました。
 当方も、診療にあたった医師の鑑定書を2通提出しました。

 この段階で、高裁から和解勧告がなされました。
 和解案は、事故と因果関係を認めた上で、素因減額をするというもの。

 素因とは、損害の発生及び拡大に影響を及ぼす被害者側の事情
 その理由により、賠償額を減額するのが素因減額の考え方です。

 一審・福岡地裁が認めた賠償額が削られることに不服がありましたが
 高等裁判所の和解案であることを考慮して受諾、和解が成立しました。
 
 裁判は証拠によって事実を立証しなければならず
 複数の要因が重なると、すべての事実が存在しないことにも。

 そんな錯綜した事件でした。
 

2011年1月31日月曜日

 今さらジロー(1)



 判例集にきょうみぶかい判決が掲載されていて
 わが事務所でも話題になったので、ご紹介。

 東京高裁の平成22年9月6日判決。そのタイトルは
 以下のとおり、まるで小説の帯に書かれたあらすじのよう。

 「産院で取り違えられ生物学的な親子関係がない夫婦の実子として
 戸籍に記載され実親子と同様の生活実体を長期間形成してきた兄に対して

 両親の死後、遺産争いを直接の契機として戸籍上の弟らが提起した
 親子関係不存在確認請求が権利の濫用に当たるとされた事例」
 
 1審(東京家裁)では弟らが勝訴していたところ
 本高裁判決は兄の勝訴となっています(弟ら上告中)。

 「血は水よりも濃し」「血の争い」「血族」など、親子関係については
 むかしから血のつながりが重視されてきました(血縁主義の原則)。

 最近では遺伝子(DNA)鑑定が10万円前後でできるようになり
 ドーキンス流の「利己的な遺伝子」が紛争を呼んでいます。

 むかしは血液型に関する知識や遺伝子鑑定などありませんから
 婚姻という外形事実から、民法は親子関係を推定しています。

 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定されます(722条1項)。
 婚姻関係にある男女から生まれた子は嫡出子ですから、嫡出の推定です。
 
 婚姻成立の日から200日を経過した後 または
 婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は
 婚姻中に懐胎したものと推定されます(同2項)。
 
 受精後平均266日で生まれるという
 人間の生物学的事実に基づく推定です。

 この推定が働く婚姻中であっても、妻が浮気をして
 他の男性との間の子が生まれることもあります。
 (夫の浮気のばあい、婚外子という別の問題になります)

 もちろん夫は「俺の子じゃない。」と訴えることができます
 民法の定める嫡出否認の訴えです(774、775条)。 

 これに対し、親子関係不存在確認訴訟については
 民法の定めがありません。

 ローマ法→大陸法(ドイツ法、フランス法)を継受して立法された
 民法ですが、穴はあります。穴は解釈で埋めることになります。

 三権分立というのは、国会が法をつくり、裁判所が法を執行するという
 役割分担により、国民の自由を守る仕組みです。
 (「わたし作る人、ぼく適用する人」)

 法に定めのないことを解釈で認めることは、ある意味
 裁判所が法をつくったことになり、三権分立に反するおそれがあります。

 それゆえ、立法者が書いていないことはそれを認めない趣旨だ
 と一般には解釈されます(反対解釈)。

 ただし、民法に定めがないけれど認めないと正義に反するばあいには
 それが民法の穴であり、立法者の書き忘れと解釈されることがあります。

 こうして
 親子関係不存在確認訴訟はむかしから認められてきています。

 (つづきは明日)