2026年4月1日水曜日

【相続・コラム】いわゆる使途不明金問題について① 相続開始前の払戻し

 【事例】

 被相続人Aは、平成26年10月11日に死亡したところ、その子であるYは、Aの生前に、Aの預貯金を引き出したり、Aの保険契約の保険金受取人を変更したりし、それによりYは9844万0804円の利益を得たところ、同額のうち9433万5315円は、Aの許諾を得ていたものではなかった。被相続人Aの子であるX(相続人はXとYの2名のみ)は、Yに対して、何らかの請求をすることができるだろうか。


【解説】

1 概要

 相続開始の前後に被相続人名義の預金が払い戻されていることがあり、使途不明金問題と呼ばれている。

2 相続開始前の払戻し

⑴ 無断での払戻し

 被相続人の生前に、被相続人の一人が被相続人の預貯金を無断で払い戻した場合、被相続人の当該相続人に対する不当利得返還請求権(又は不法行為に基づく損害賠償請求権)が発生し、これが、被相続人の死亡により、各共同相続人に当然分割されるのが原則である。

⑵ 委託を受けた払戻し

 払戻しが無断ではなければ、寄託金返還の問題となる(裁判例②)。

⑶ 被相続人からの贈与

 被相続人の了解のもと預貯金が払い戻され、特定の相続人が贈与を受けた場合は、特別受益の問題になる。

3 分割の対象となる遺産の範囲-金銭債権

 上記2⑴⑵の場合、共同相続人は被相続人の有する金銭債権を相続することになる。そして、金銭その他の可分債権は、相続開始とともに法律上当然に分割される(判例①)。

4 事例について

 被相続人Aの生前にYがAの許諾なく預貯金を引き出したりした使途不明金の額は、9433万5315円であった。そのため、Xは、法定相続分2分の1に相当する4716万7657円をYに対して請求できると判断された。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

①最小判昭和29年4月8日・民集6巻4号819頁

■高等裁判所

②東京高判令和4年4月28日・判タ1517号105頁

■地方裁判所

③東京地判令和3年9月28日・判時2528号72頁(事例)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

①井上繁規『遺産分割の理論と審理(第3版)』(2021、新日本法規)183~187頁

②岡口基一『要件事実マニュアル第5巻 家事事件・人事訴訟(第7版)』(2024、ぎょうせい)451~452頁

③司法研修所『遺産分割事件の処理をめぐる諸問題』(1994、法曹会)245~246頁

④片岡武、管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第4版)』(2021、日本加除出版)76~78頁

⑤田村洋三、小圷眞史ほか『実務 相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル(第3版)』(2020、日本加除出版)214~219頁

⑥松本哲泓『設例解説 遺産分割の実務 ー裁判官の視点による事例研究-』(2024、新日本法規)184~188頁

⑦山城司『Q&A 遺産分割事件の手引き』(2022、日本加除出版)159~162頁

■立案担当者見解

■学説

■弁護士・その他

⑧関戸勉、福澤武文ほか『相続・遺言を巡る法律問題 弁護士が知識と経験で解決した困難事例』(2020、第一法規)3~11頁

⑨本橋総合法律事務所『Q&Aと事例 相続における使途不明金をめぐる実務』(2025、新日本法規)


富永

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