【事例】
被相続人Aは、平成26年10月11日に死亡したところ、その子であるYは、同月12日以降、4回に渡り、A名義の普通預金口座から、合計259万6000円を出金し、同出金に伴う手数料合計432円が同口座から支払われた。被相続人Aの子であるX(相続人はXとYの2名のみ)は、Yに対して、何らかの請求をすることができるだろうか。
【解説】
1 概要
相続開始の前後に被相続人名義の預金が払い戻されることがあり、使途不明金問題と呼ばれている。
2 相続開始後の払戻し
⑴ 分割の対象となる遺産の範囲-預貯金債権
現在は、預貯金債権について、不可分債権であり、遺産分割の対象となるとされている(判例②~④)。
そのため、原則として、遺産分割の前には、共同相続人全員の同意を得なければ、預貯金の払戻しをすることができない。
⑵ 単独の権利行使による払戻し
各相続人は、預貯金債権のうち、相続開始時の債権額の3分の1に当該相続人の法定相続分を乗じた額(ただし各金融機関ごとに150万円が上限)を、単独で払い戻すことができる。払い戻した分については、当該相続人が遺産の一部分割によりこれを取得したものとみなされる(民法909条の2)。
払戻しがされたものは、すでに分割済みのものとなり、遺産分割の対象とはならない。もっとも、これを遺産分割の対象に含めることを相続人全員で合意することもできる(判例①)。
⑶ ⑵以外の払戻し
金融機関が相続の開始を知った場合、金融機関は預貯金口座を閉鎖し、払戻しができなくなるが、金融機関が相続開始を知るまでの間は、被相続人以外の者による預貯金の払戻しがされる余地がある。
遺産である預貯金債権が、遺産分割前に払い戻されると、預貯金債権そのものは遺産分割の対象から逸出する。これに代わる無断払戻者に対する損害賠償請求権や不当利得返還請求権を相続財産の代償財産ということはできるが、これらは可分債権であるから、原則として遺産分割の対象とならない。民事訴訟による解決となる。
無断払戻者以外の相続人の同意が得られれば、その財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなし、それを当該払戻しをした相続人に取得させる(民法906条の2)。
3 事例について
被相続人Aの死後に出金された金額等は、合計259万6432円であった。そのため、Xは、法定相続分2分の1に相当する129万8216円をYに対して請求できると判断された。
【発展】※専門職向け
【判例・裁判例】
■最高裁判所
①最小判昭和54年2月22日・集民126号129頁
②最小判平成22年10月8日・民集64巻7号1719頁
③最大決平成28年12月19日・民集70巻8号2121頁
④最小判平成29年4月6日・集民255号129頁
■高等裁判所
■地方裁判所
⑤東京地判令和3年9月28日・判時2528号72頁(事例)
【参考文献】
■調査官解説
■条解・コンメンタール等
①潮見佳男『新注釈民法⒆ 相続⑴(第2版)』(2023、有斐閣)398~408頁、497~514頁
■裁判官・元裁判官
②井上繁規『遺産分割の理論と審理(第3版)』(2021、新日本法規)239~240頁
③岡口基一『要件事実マニュアル第5巻 家事事件・人事訴訟(第7版)』451~452頁
④片岡武、管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第4版)』(2021、日本加除出版)76~80頁
⑤田村洋三、小圷眞史ほか『実務 相続関係訴訟 遺産分割の前提問題等に係る民事訴訟実務マニュアル(第3版)』(2020、日本加除出版)214~219頁
⑥松本哲泓『設例解説 遺産分割の実務 -裁判官の視点による事例研究-』(2024、新日本法規)169~170頁、188~195頁
⑦山城司『Q&A 遺産分割事件の手引き』(2022、日本加除出版)163~172頁
■立案担当者見解
■学説
■弁護士・その他
富永
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