2026年4月8日水曜日

【労働問題・コラム】就業規則の規範的効力① 最低基準効

 【事例1】朝日火災海上保険事件

 株式会社Yの就業規則には、退職時の本俸月額に支給率を乗じた額を退職金として支給する規定がある。Xらは、労使交渉の末、本俸引上額を退職金算定に入れないことを条件に、株式会社Yとの間で、賃上げに口頭で合意した。なお、就業規則は改定されていない。この場合、Xらは、賃上げ後の退職時本俸月額を基準とした退職金の請求ができるだろうか。

【事例2】野本商店事件

 株式会社Yの就業規則には、定期昇給は年2回定められた昇給率、賞与は年2回それぞれ基本給の半月分、1か月分と規定されている。あるときから業績が悪化し、就業規則とおりの定期昇給と賞与支給が行われなくなっている。従業員Xは、就業規則とおりの定期昇給を前提とした賃金請求や賞与請求ができるだろうか。


【解説】

 就業規則が定める労働条件は、法令または労働協約に反しない限り(労基法92条1項)、事業場の労働条件の最低基準として労働契約の内容を強行的・直律的に規律する(労契法12条前段・後段)。就業規則の「最低基準効」と称される。

 【事例1】において、Xが賃上げ後の退職時の本俸月額を退職金算定の基礎として計算した退職金の支払を請求した場合、請求は認められるだろうか。本俸引上額を退職金算定の基礎に入れないことを条件に賃上げの合意をしているのだから、請求は認められないようにも思える(実際、判例①は、退職金請求を認めた原審に対し、退職金算定の基礎に算入しない旨の黙示の合意が成立するとの主張の当否を原審が判断していないとして、破棄差戻しにしている。)。しかしながら、就業規則が改定されていない以上、最低基準効はなお有効なものとして存在している。そのため、就業規則の規定に基づくXの請求は認められる。

 【事例2】において、就業規則の最低基準効から、昇給した場合の差額賃金及び賞与の支払請求が認められることは、分かりやすい。ところが、裁判例②は、「昇給の実施をしないこと及び賞与の支給をしないことを暗黙のうちに承認していた、すなわち、黙示の承諾をしていた」として、請求を棄却するという判断をしており、学説(①)から批判されている。




【発展】※専門職向け


【判例・裁判例】

■最高裁判所

①最小判平成6年1月31日・労判648号12頁(事例1)

■高等裁判所

■地方裁判所

②東京地判平成9年3月25日・労判718号44頁(事例2)


【参考文献】

■調査官解説

■条解・コンメンタール等

■裁判官・元裁判官

■立案担当者見解

■学説

①水町勇一郎『詳解 労働法(初版)』(2019、東京大学出版会)179~180頁

②菅野和夫『労働法(第12版)』(2019、弘文堂)218~219頁

■弁護士・その他


富永

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